2026年7月27日(月)
北朝鮮の3万人派兵のウクライナ戦への影響 ウクライナに越境の可能性も
2025年5月のロシアの第2次世界大戦勝利記念80周年式典に参加した北朝鮮軍事代表団と握手を交わすプーチン大統領(朝鮮中央テレビから)
ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアが北朝鮮に対してさらに3万人規模の追加派兵を求めていること、同時にロシアが6月から南西部のボロネジ地域で北朝鮮軍部隊を受け入れる準備を進めていることを明らかにしていた。
ロシアと北朝鮮は27日午後3時現在、この件について公式な言及をしていない。しかし、ゼレンスキー大統領は2024年に北朝鮮軍による初の派兵の可能性について、いち早く情報を公表していた経緯があり、今回の発言についても一定の信憑性があるとの見方が出ている。
仮に事実であれば、3万人規模の派遣は軍団級に相当する。一昨年(2024年)にロシア・クルスク州へ派遣された約1万4000人の2倍を超える規模となる。
ゼレンスキー大統領が言及した新たな弾道ミサイル発射機の供与まで実現すれば、ロシアが期待する北朝鮮兵の役割は当初の歩兵による突撃任務に限定されない可能性が高い。追加派兵部隊に砲兵、工兵、ドローン運用要員、兵站要員などが含まれれば、単なる兵力補充だけでなく、戦闘支援能力の強化も図ることができる。ロシアは北朝鮮製ミサイル戦力によって縦深攻撃能力の維持を図る構えとみられる。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、プーチン大統領から要請されれば、両国間に「露朝包括的戦略パートナーシップ」が存在することや、これまで「平壌はモスクワと共にある」「ロシアが勝利する日までロシアを支援する」と表明してきた経緯から、直接的な要請には応じる可能性が高い。ただし、金正恩総書記は相応の条件を提示し、それなりの見返りを要求するものとみられる。
第一に、北朝鮮兵の駐留および戦闘行為を、原則としてロシア領内の防衛任務に限定することだ。
「露朝包括的戦略パートナーシップ」の第4条には「一方が武力侵攻を受けて戦争状態になった場合、軍事援助を行う」ことが明記されている。このため北朝鮮軍は、後方地域や国境地帯の防衛任務を中心に担う可能性がある。想定される任務としては、国境地帯や軍事施設、兵站路の警備、損耗した部隊への歩兵補充、さらに砲兵・工兵・ドローンによる偵察任務などが挙げられる。
しかし、ロシアがウクライナに対し、停戦条件あるいは和平案としてドンバス地方(ドネツク州、ルハンスク州)の割譲を求めていることは周知の事実である。
ウクライナ軍が侵入したロシア領であるクルスク州やベルゴロド州への派遣は、北朝鮮からすれば「ロシア防衛」という観点から条約上の説明が可能である。しかし、ハルキウ州などはロシア軍の攻撃対象となっているものの、国際的にはウクライナ領であり、同地域への侵入は領土侵犯とみなされる可能性が高い。
一方、ドネツク州のマリウポリは2022年5月以降、ロシアの支配下に置かれている。親ロシア派が「ドネツク人民共和国」を宣言し、北朝鮮がこれを承認して外交関係を結んでいることから、北朝鮮兵がマリウポリなどへ展開する可能性は否定できない。仮にドネツク州などウクライナ領内での攻撃作戦に投入されれば、北朝鮮兵はロシアの侵攻作戦に直接組み込まれることになる。
次に問題となるのは、北朝鮮が求める見返りである。
北朝鮮兵はクルスク州での戦闘において大きな損害を受けた。韓国、欧米諸国、ウクライナ側の推計は時期や集計基準によって異なるものの、約1万4000人の派遣部隊のうち、6000人以上が死傷したとされている。
北朝鮮は国家表彰授与式を行い、死傷者らに勲章を授与したほか、平壌の高層住宅への移住、遺児の革命学院への入学など、最大限の待遇を与える方針を示している。しかし、3万人規模の派遣となれば、さらなる死傷者の増加は避けられない。
ロシアからはの兵士1人当たりの手当は約2000ドル、死傷者への補償は1万ドルから2万ドル程度とされているが、追加派兵に際しては、より大幅な増額を要求する可能性がある。
韓国の国防研究院が発表したデータによれば、北朝鮮は2024年の派兵による見返りとして、約28兆7000億ウォン規模の経済効果を得たとされる。2024年の北朝鮮経済成長率はプラス3.7%となり、8年ぶりの高水準に達した。「ウクライナ特需」による利益を得た北朝鮮は、労働党第9回大会で打ち出した新たな5カ年計画の遂行に向け、エネルギー、食糧、外貨などの追加支援をロシアに求めるとみられる。
さらに軍事面では、原子力潜水艦用原子炉技術、軍事偵察衛星、大陸間弾道ミサイルの大気圏再突入技術、核弾頭小型化に関連する技術供与などを要求する可能性がある。
金正恩総書記がクルスク州への第1陣の派兵を命じた日は、2024年10月22日である。それまでの間に金総書記は結論を下すものとみられる。
(参考資料:北朝鮮はロシアに3万人の兵力を投入するのか ウクライナへの越境は「露朝条約」違反)