2026年7月28日(火)
封建的で男性優位の北朝鮮で娘が本当に後継者になるのか
大城山革命烈士陵の前で整列する金正恩親子(円が娘、左隣が母親)(朝鮮中央通信)
金正恩(キム・ジョンウン)総書記の後継者と目される娘が、6月4日の駆逐艦「姜健」号の航海試験視察以来、52日ぶりに公の場に姿を現した。朝鮮戦争の「戦勝(休戦)記念日」(7月27日)の前日、両親とともに祖国解放戦争参戦烈士墓や大城山革命烈士陵を訪れた。
写真を見ると、母親の李雪主(リ・ソルジュ)夫人よりも背が高くなり、一段と成長した様子がうかがえた。まだ13歳ながらハイヒールを履き、薄化粧を施すなど、容姿や身なりも随分と大人びてきた。
変貌する娘(2022年〜2026年)(労働新聞から筆者キャプチャー)
「ジュエ」と称されている娘は2022年11月18日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17号」の発射に際し、父親に伴われて初めて公の場に姿を現して以来、毎年、軍事関連行事を中心にさまざまな場所へ同行している。
娘の動静の中でも注目すべきは、昨年4月の建国の父・金日成(キム・イルソン)主席の生誕日「太陽節」関連行事への出席である。
和盛地区第3段階1万世帯住宅の竣工式に同行し、祝賀公演を鑑賞したほか、今年1月1日には初めて金日成主席と金正日(キム・ジョンイル)前国防委員長が安置されている錦繍山太陽宮殿を参拝した。こうした動きからは、着実に後継者への階段を上っていることがうかがえる。
娘が祖国解放戦争参戦烈士墓や大城山革命烈士陵を訪れたのも今回が初めてである。一大城山革命烈士陵は北朝鮮の抗日独立運動家らが眠る墓地である。金総書記が娘を帯同させた狙いは「白頭血統」の正統性を内外に誇示することにあったものとみられる。
韓国では、娘の後継者説に対する懐疑論が依然として根強い。未成年であること以上に、女性であることが最大のネックとみられている。確かに、家父長制的な男性優位の伝統が色濃く残る北朝鮮、しかも軍事独裁国家において、確かに女性が最高権力を継承することは容易ではない。
日本の場合、国家元首を天皇と位置付ける考え方が一般的である。日本国憲法は、天皇を「日本国及び日本国民統合の象徴」と定め、「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と規定している。現行の皇室典範では、「皇位は皇統に属する男系の男子がこれを継承する」と定められている。国内では女性・女系天皇を認めるべきだとの議論もあるが、現行制度では男系男子による継承が維持されている。
建国の歴史が浅い北朝鮮の場合、国家元首は労働党総書記を兼ねている金正恩国務委員長である。北朝鮮は今年3月の憲法改正で、国務委員長を国家元首と定めた。
北朝鮮の最高指導者は事実上、世襲によって継承されている。「革命偉業を継承・発展させるには、首領に最も忠実で、首領の思想を体得した人物が後継者に選ばれる」という建前はあるものの、実際には何よりも重視されているのが「白頭山の血統」である。
白頭山を拠点に抗日武装闘争を展開し、朝鮮民主主義人民共和国を建国した金日成主席の血統を受け継ぐ者、すなわち子どもが後継者に指名される。こうして2代目には金正日(キム・ジョンイル)氏、3代目には現在の金正恩(キム・ジョンウン)氏が選ばれた。いずれも男性である。
金日成、金正日両氏ともに長男である。長男継承という慣例に従えば、本来であればマレーシアで殺害された金正男(キム・ジョンナム)氏が後継者となるはずだった。しかし、実際に3代目として選ばれたのは三男の正恩氏であった。封建的な国家なのに「長男が家督を継ぐ」慣例が適用されなかったのである。
北朝鮮は王制国家ではないものの、日本のメディアの中には北朝鮮の体制を「金王朝」と表現するところもある。その見方に立てば、金正恩氏は「王」、その娘は「王女」という位置付けになる。
仮に金正恩氏に男子、すなわち「王子」が存在しなければ、「王女」が後を継ぎ、「女王」となる。
北朝鮮と同民族の1948年に建国した韓国の場合、国家元首は大統領である。韓国では、現在の李在明(イ・ジェミョン)大統領まで14人の大統領が誕生しているが、女性大統領は2013年2月に就任した朴槿恵(パク・クネ)氏ただ一人である。
朴氏は朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領(1963〜1979年)の長女であるが、北朝鮮とは異なり、世襲によって大統領となったわけではない。国民による直接選挙を経て大統領に選出されている。
北朝鮮のような軍事独裁国家にあって「ジュエ」が本当に後継者に指名されるのか、世界中が注目している。