2026年7月6日(月)

 原潜まで保有する北朝鮮の海軍力増強を決して侮るなかれ!

昨年座礁した駆逐艦「崔賢号」から発射される巡航ミサイル(朝鮮中央通信)

 北朝鮮海軍は7月3日、5千トン級「崔賢(チェ・ヒョン)号」に続く2隻目の「姜健(カン・ゴン)号」の兵器試験を行い、巡航ミサイルなどを発射した。これにより、2か月以内に就役する見通しとなった。

 周知のように、「姜健号」は昨年5月、咸鏡北道清津市の清津造船所で進水式の最中に座礁した駆逐艦である。進水台から艦尾が艦首より先に降下したため、艦体が横倒しとなって大きな損傷を受け、この事故では死者も1人出た。

 当時、進水式に出席し事故を目の当たりにした金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、「重大な事故であり、これは犯罪行為だ」と激怒したことは言うまでもない。金総書記が「責任者らを厳重に処罰せよ」と一喝したため、党指導幹部のリ・ヒョンソン軍需工業部副部長と、現場責任者である清津造船所支配人、同造船所技師長、行政副支配人の3人が拘束され、海軍司令官の金明植(キム・ミョンシク)大将も解任された。

 大衆の面前で面子を潰された金総書記は「駆逐艦を一刻も早く原状回復させることは、単なる実務上の問題ではなく、国家の権威に直結する政治的問題である。6月の党中央委員会総会までに無条件で完全に復旧させなければならない」と命じた。北朝鮮は大方の予想を覆し、横倒しとなった艦船を立て直して羅津造船所へ曳航し、わずか3週間で修繕を終え、事故発生から22日後の6月12日に進水式を実施した。

 事故発生当時、韓国海軍の潜水艦艦長を務めた経験を持つ文根植(ムン・グンシク)漢陽大学公共政策大学院特任教授は米国の「自由アジア放送(RFA)」の取材に対し、「完全に横倒しになってしまった。あの程度であれば、船体の破孔(穴)はかなり大きいはずだ。その状態なら艦尾部分が大きく損傷している可能性が高い。エンジンに海水が入り込んでいるならば状況はかなり深刻だ。塩水が入ると非常に重大な損傷につながるから」とコメントしていた。

 こうした見方を受け、韓国では「設備もないし、北朝鮮の技術では元に戻せない」「引き揚げに失敗すれば沈没するかもしれない」「駆逐艦を切断するほかないだろう」「海中から引き揚げても使い物にならないのではないか」などと論じられていた。総じて、「一から作り直すほかない」「使い物にならないので廃船にするしかない」というのが一般的な見方だった。

 「姜健号」の進水式には金総書記と、後継者と目される娘が出席し、艦名は「姜健(カン・ゴン)号」と命名された。金総書記はこの場で「崔賢」級、あるいはそれ以上の駆逐艦を毎年2隻ずつ建造し、日本海などの作戦水域に配備する計画を高らかに宣言していた。

 駆逐艦の建造には、起工から進水まで約1〜2年、進水から就役まで約1〜3年を要し、合計3〜5年かかると言われている。また、日本円で少なくとも400億円相当とされる駆逐艦を毎年2隻建造するには、それだけの軍事予算も必要である。従って、韓国では「北朝鮮にそれだけの技術や資金があるはずはない」と、懐疑的な見方が支配的だった。

 韓国合同参謀本部のイ・ソンジュン報道官は、北朝鮮が昨年5月に「崔賢号」を公開した際、「実際に戦力化されるまでには相当な時間がかかる」との見通しを示していた。しかし北朝鮮はそれから3か月後の8月には艦の武装システムの統合運用試験を行い、今年3月には作戦遂行能力を評価するための航海試験まで実施していた。

 自ら艦に乗り込み艦船制御システムを点検した金総書記は「これ以上のレベルの水上艦を新しい5か年計画期間中、毎年2隻ずつ建造する」と豪語していた。実際、この日も金総書記は造船所で駆逐艦第3号艦の建造状況を視察していた。

 北朝鮮は軍事力、特に核・ミサイル分野では有言実行の国である。唯一の例外が軍事偵察衛星で「2024年までに偵察衛星3基を保有する」と明言していたものの、発射に失敗した2024年5月27日を最後に一度も打ち上げられていない。現状では3基保有は「絵に描いた餅」となっている。それに代わって急速に存在感を増しているのが艦艇戦力である。

 日本は海上自衛隊のイージス艦を現在8隻、韓国は3隻保有している。その中で最大なのが世宗大王(セジョンデワン)級(7600トン)である。北朝鮮はこのペースで建造を進めれば、新国防5か年計画が終了する2031年までに12隻を保有することになる。その中には1万トン級も含まれている。

 北朝鮮の脅威は駆逐艦だけではない。潜水艦についてはあまり知られていないが、北朝鮮は中国、ロシアに次ぐ世界第3位の潜水艦保有国である。加えて、戦術核攻撃潜水艦も保有している。

 「金君玉(キム・グンオク)英雄」号と命名された戦術核攻撃潜水艦は2023年に進水し、6基の大型ミサイル発射管と4基の小型発射管を備えていた。すでに日本海側を担当する海軍東海艦隊隷下の水中艦戦隊に配備されている。

 原子力潜水艦も年内に公開される見通しだ。原潜は原子力技術を保有する国でしか建造できず、保有国は国連安全保障理事会常任理事国5か国とインドの計6か国に限られる。日本も韓国も、さまざまな制約からいまだ保有していない。

 原子力潜水艦は起工から就役まで通常6〜10年程度かかるとされる。しかし、金総書記は2023年9月6日の「金君玉英雄号」号の進水式で「今日の戦術核攻撃潜水艦の進水式は我々が新型原子力潜水艦を建造しているのと同じくらい敵にとって負担となるだろう」と演説し、原子力潜水艦を建造中であることを初めて明らかにした。それからまだ3年しか経っていない。

 北朝鮮は一度宣言すれば、猛スピードで実現し、手に入れてきた。日米韓にとって侮れないのは、その強い意志と潜在力である。