2026年7月7日(火)

 北朝鮮の対米「砲艦外交」 原子力潜水艦の進水が迫る!

昨年12月25日に公開された建造中の北朝鮮の原子力潜水艦(朝鮮中央テレビから)

 北朝鮮が建造中の原子力潜水艦のお披露目の日が近づいているようだ。

 朝鮮労働党第8回大会で打ち出された2021年から2025年までの「国防科学発展及び兵器システム開発5か年計画」には核長距離打撃能力を高めるため原子力潜水艦(原潜)と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)という戦略兵器を保有することが盛り込まれていた。

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記は2年後の2023年9月6日、戦術核攻撃潜水艦「金君玉(キム・グンオク)英雄号」の進水式で「今日の戦術核攻撃潜水艦の進水式は、我々が新型原子力潜水艦を建造しているのと同じくらい敵にとって負担となるだろう」と演説し、原子力潜水艦を建造中であることを明らかにしていた。

 しかし、原子力潜水艦は5か年計画の期間内には完成しなかった。今年2月に開催された党第9回大会で発表された新たな国防展望計画(2026〜2031年)では原潜には触れられず、「海軍の水上・水中戦力の核武装化を中心に、海軍の作戦能力を急速かつ持続的に更新する」との方針が打ち出された。本来であれば、原潜はすでに完成しているはずだった。

 開発が遅れている理由については、艦体は完成していても、肝心の動力となる小型原子炉技術がロシアから移転されていないと韓国では囁かれているが、そうした事情がなければ、時期的にはそろそろお披露目されても不思議ではない。

 北朝鮮は昨年12月25日、建造中の原潜の全体外観を初めて公開し、開発が最終段階に入ったことを誇示した。

 原子力潜水艦の建造には、大型潜水艦の設計・建造能力、動力源となる小型原子炉の開発能力、燃料となる濃縮ウランの確保能力という3つの要素が不可欠であり、北朝鮮はこれらをすべて備えていることを示そうとした形だ。さらに、この原潜はSLBMを搭載し、核ミサイル発射を主任務とする戦略兵器である。一般には「移動する核ミサイル基地」とも呼ばれる究極の戦略兵器だ。

 韓国国防研究院(KIDA)は、この原潜を米海軍のロサンゼルス級攻撃型潜水艦と同程度の約6000トン級と推定している。西側諸国の戦略原潜よりは小型で、攻撃型原潜よりはやや大型という中間的なサイズである。ちなみに、北朝鮮が2023年9月に進水させた3000トン級「金君玉英雄号」の約2倍の規模となる。艦首には533ミリ魚雷発射管6基が確認され、艦橋後方にはSLBM発射管5基と垂直発射装置(VLS)10基が備えられているとみられる。

 北朝鮮は、韓国による原子力推進潜水艦導入の動きについて、米韓が「核協議グループ(NCG)」を通じて核・通常戦力統合態勢を構築し、関連する軍事演習を実施していることを理由に、「我が国を直接標的とした軍事演習や偵察活動を絶え間なく実施し、朝鮮半島情勢を極度に悪化させている」と批判している。「自分は持つが、お前は持ってはならない」との勝手な言い分だ。

 しかし、韓国が導入を目指しているのは核弾頭を搭載しない攻撃型原子力潜水艦(SSN)である。核弾頭搭載可能なSLBMを運用する北朝鮮の原潜とは、その目的も核の運用方法も大きく異なる。韓国の原潜は原子力を推進力として利用するものの、敵の潜水艦などを追跡・監視し、通常兵器で撃沈することを目的とした防衛用の「ハンターキラー」である。

 問題は、仮に近くお披露目されたとしても北朝鮮の原潜が実際に戦力化されるかどうかが最大の焦点となであろう。

 韓国の専門家の多くは「公開されたのはダミー(模型)ではないか」「北朝鮮の宣伝戦略に振り回されている」とみている。また、潜水艦の構造が通常よりも不自然で特異な形状であることから、「正常な運用は困難ではないか」との見方もある。

 その代表格が、北朝鮮の外交・軍事問題の専門家として知られる梨花女子大学の朴元坤(パク・ウォンゴン)教授である。同教授は「公開したことと実戦配備は全く別の話だ。小型原子炉技術がロシアから移転されたと断定することはできず、公開された潜水艦が正常に作動する可能性は高くない」と分析している。

 しかし、仮に正常に作動し、実戦配備されれば、北朝鮮は地上配備型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)に加え、「第二撃能力」を獲得することになる。第一撃能力が先制核攻撃能力であるのに対し、第二撃能力は、敵の核攻撃を受けても生き残った潜水艦から核兵器で報復攻撃を行う能力を指す。

 探知が困難な原潜から「北極星」シリーズのSLBM(射程1000〜2000km)を発射し、米本土に対する核報復攻撃が現実的な脅威となれば、イラン情勢やウクライナ戦争への対応に追われるトランプ政権も、いつまでも北朝鮮問題を後回しにはできないだろう。

 北朝鮮が原潜をお披露目する日は、トランプ政権に北朝鮮の核保有という現実への対応を迫る節目となる可能性がある。