2026年6月1日(月)

 日韓関係は良好でも・・・韓国が日韓ACSA締結に慎重な三つの理由

日韓防衛相会談に臨む小泉進次郎防衛相(右)と安圭伯国防相(出展:韓国国防部)

 日韓関係は首脳同士のシャトル外交によって良好な状態を維持している。しかし、両国関係があらゆる分野で順調に進展しているわけではない。

 韓国の安圭伯(アン・ギュベク)国防部長官は5月31日、訪問先のシンガポールで記者団に対し、前日に行われた小泉進次郎防衛相との会談で、日本側から物品役務相互提供協定(ACSA)の締結問題が提起されたことを明らかにした。ACSAは有事の際、弾薬や食料、燃料などの軍需物資を相互に融通するための協定だが、安長官によれば、今回の日韓国防相会談の公式議題にはそもそも含まれていなかったという。

 日本は李明博(イ・ミョンパク)政権時代から、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に続く安全保障協力の枠組みとして韓国に対してACSA締結を求めてきた。しかし韓国側は一貫して慎重姿勢を崩していない。今回も安長官は「国民の理解と説得が必要だ」と述べるにとどまり、前向きな姿勢は示すことはなかった。

 韓国はすでに米国、カナダ、フランス、ドイツをはじめ、トルコ、ヨルダン、タイ、フィリピン、オーストラリアなどとACSAを締結している。それにもかかわらず、日韓安全保障対話を局長級から次官級協議(2プラス2)へ格上げしながら、日本とのACSAには二の足を踏んでいる。その理由は主に3点ある。

 その一つは、領土問題である。

 日韓は竹島(韓国名・独島)の領有権を巡って対立している。双方とも「歴史的にも国際法的にも自国固有の領土」と主張しており、歩み寄る気配はない。島周辺での海洋調査を巡って海上保安庁と韓国海洋警察庁が対立した例も少なくない。

 韓国は現在も年2回、軍と海洋警察による「独島防衛訓練」を実施している。一方、日本側も昨年11月、航空自衛隊那覇基地で予定していた韓国空軍機への初の給油支援を、韓国軍機が竹島周辺を飛行していたことを理由に急きょ中止した経緯がある。領土問題が未解決のままである限り、韓国がACSA締結に踏み切るのは容易ではない。

 次に、北朝鮮との関係である。

 李政権は尹錫悦(ユン・ソクヨル)前政権下で悪化した北朝鮮との関係修復を重要課題に掲げている。北朝鮮を対話と交流の場に呼び戻すため金正恩(キム・ジョンウン)政権に対して@吸収統一を目指さないA北朝鮮体制を認めるB敵対的行為を行わない――との方針を打ち出している。

 北朝鮮は日本の防衛力強化について「国際平和と人類に対する露骨な挑戦」(労働新聞)と非難している。その日本と韓国がACSAを締結すれば、北朝鮮には対北包囲網の一環として映る可能性がある。特に李大統領は、高市早苗首相との先の安東での首脳会談で「争う必要のない平和な朝鮮半島」の実現を目指す考えを説明したばかりだ。有事を前提としたACSAへの参加には政治的なハードルが存在する。

 第三に、歴史問題である。

 安国防部長官は日本側に対し、「韓国国民の理解と説得が必要な問題だ」と説明したが、その背景には、依然として韓国社会に歴史問題を背景にした根強い対日警戒感がある。

 日韓関係は文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に最悪だったと語られているが、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権(2003〜2008年)の時も関係は大きく悪化した。当時は小泉純一郎首相の靖国神社参拝が大きな火種となり、激怒した盧大統領は日韓シャトル外交を中断してしまった。

 小泉進次郎防衛相はその小泉純一郎元首相の長男であり、自身も靖国神社参拝を続けている政治家として知られる。従って、握手していても小泉防衛相に対する警戒感はないとは言えない。小泉防衛相は近々予定されている訪韓では板門店(軍事境界線)の訪問(視察)を希望しているようだが、李政権が北朝鮮の反発を招きかねない小泉氏の訪問を認めるかどうかが、一つのバロメーターとなりそうだ。