2026年6月24日(水)

 金正恩氏の「対日批判」は中国へのリップサービス 北朝鮮の外交目標は日朝関係正常化

高市早苗首相と金正恩総書記(首相官邸HPと労働新聞から筆者キャプチャー)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記が6月20〜22日に開かれた労働党中央委員会総会で日本を「軍国主義」と名指しで批判したことがちょっとした騒ぎとなっている。

 正確には、金総書記は以下のように日本について言及していた。

 「アジアの敗戦国である日本が、現在の混乱した局面を軍事大国化を制限するあらゆる足かせを解く絶好のチャンスとし、公然と戦争国家へと変身している」

 「日本軍国主義のような現代版の国粋主義が一層横行し、結託し合って全世界が戦争と流血惨劇に巻き込まれた一世紀前の残酷な状況を連想させる国際的な不安定事態をもたらしている」

 金総書記は2012年の執権以来、演説で日本を批判したことは一度もないのではないだろうか。そもそも日本について言及すること自体が極めて稀である。

 近年では、2025年1月の能登半島地震に際し、「被災地の人民が一日も早く震災の悪結果をなくし、安定した生活を回復するようになることを祈願する」との見舞い電を送り、「深甚なる同情と見舞い」を表した程度である。それ以外では、妹の金与正(キム・ヨジョン)部長が良くも悪くもその役割を代行し、日本について発言してきた。

 それだけに意外であった。それも唐突な批判である。もちろん、北朝鮮メディアはこれまで日本の「軍国主義」に関する記事を数多く掲載していた。

 例えば、今年1月11日の朝鮮中央通信は「新軍国主義の終着点は『強い日本』ではなく滅びた日本である」との見出しを掲げ、「国家安全保障戦略」など安全保障関連3文書の改定を進める日本を批判していた。また、4月14日には外務省日本研究所の政策室長が「日本の外交青書は『周辺脅威説』で急進的な軍国主義への歩みを粉飾するための謀略文書である」と題する談話を発表していた。

 しかし、最高指導者である金総書記自身が日本の軍国主義について言及するとは想定外だった。それというのも、金総書記は中国の習近平主席が約7年ぶりに訪朝した際の首脳会談や歓迎宴での演説を伝えた朝鮮中央通信の報道では日本軍国主義批判の文言はなかった。但し、その前兆はあった。

 習主席は訪朝した当日(6月8日)、労働新聞に寄稿したが、その中で「軍国主義を復活させようとするあらゆる企みや、地域の安全と安定を脅かす一切の行為に反対する」と表明していた。

 従って、金総書記は、台湾問題や東シナ海問題で高市政権と対立する習主席への連帯を示す意味で、軍国主義に言及したのではないだろうか。換言すれば、中国に歩調を合わせたに過ぎないとも考えられる。

 北朝鮮の外交はしたたかである。中露を天秤にかけ、また中国に急接近しながら、水面下では米国との関係も模索している。日本についても同様だ。

 金総書記は先の能登半島地震に対する見舞い電を当時の岸田首相宛てに送っていたが、その際、「日本国総理大臣岸田文雄閣下」と呼んでいたことは記憶に新しい。

 また、国際安保問題評論家であるキム・リョウォン氏が日本の兵器輸出問題を批判した6月3日の「日本の兵器輸出拡大劇は戦争屋の本性を余地もなくさらけ出した危険極まりない行為である」と題する記事でも、「高市早苗」と呼び捨てせず、「現在の日本執権者」と表現していた。

 金与正部長も3月23日の談話で、金総書記との首脳会談に意欲を示した高市首相に対し、「首脳同士が会うにはまず日本が時代錯誤の慣行、習性と決別することだ」と述べ、日本側の対応次第では日朝首脳会談の余地を残していた。というのも前日の3月22日に開催された最高人民会議での演説で、金総書記が「変化する国際情勢に対応し、国益を最優先に自主的な外交を展開する」と述べ、「従来の枠組みにとらわれない新たな外交戦術の必要性」を強調していたからだ。

 こうした発言を踏まえれば、金総書記が日本を「軍国主義」と批判したとしても、日本側の対応次第では日朝首脳会談の可能性は依然として残されていると言えよう。

 高市首相は5月30日、拉致被害者の即時帰国を求める国民集会で「双方の国民、未来の若者のために勇気ある一歩を金氏と踏み出したい」と金総書記に呼びかけ、「互いに実りある関係をつくるべく対話し、具体的に行動する用意がある」と述べていた。

 絶え間なく、積極的な姿勢を示し続ければ、北朝鮮との対話の扉が開かれる日は必ず来るであろう。