2026年6月26日(金)

 小泉防衛相は板門店を視察できるのか?

今年1月には防衛相の招きで訪日した韓国の安圭伯国防長官(右)(出展:韓国国防部)

 小泉進次郎防衛相の訪韓が昨日(25日)、韓国国防部から正式に発表された。日本の防衛相が二国間会談を目的に韓国を訪問するのは朴槿恵(パク・クネ)保守政権下の2015年以来、11年ぶりである。

 韓国国防部によると、今回の小泉訪韓は日韓防衛当局者による「シャトル防衛外交」の一環である。今年1月には安圭伯(アン・ギュベ)国防部長官が防衛省の招きで訪日しており、今回はその答礼訪問とも言える。

 日程は27日から28日までの1泊2日。小泉防衛相は到着したその日に韓国空軍の特殊飛行チーム「ブラックイーグルス」を訪問する予定だ。同部隊は今年1月、日本の航空自衛隊から空中給油支援を受けており、今回の訪問はその経緯と無縁ではない。

 安国防部長官との会談は28日午前、ソウルの国防部庁舎で予定されているが、小泉防衛相は安長官よりも20歳年下だが、国会議員としての当選回数は7回と、6回の安長官を上回っている。

 韓国では歴代の国防部長官の多くが合同参謀本部議長や各軍参謀総長、あるいは予備役大将から起用されてきた。しかし安長官は合同参謀本部議長や軍参謀総長の経験もなく、陸軍士官学校の出身でもない。成均館大学哲学科を卒業後、国会議員となり国防委員会で活動を重ね、その専門性が評価された結果、国防委員長を経て、李在明政権下で創設以来64年目にして初の文民国防部長官に抜擢された。

 両者が会談するのは、5月30日のアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)以来、およそ1か月ぶりとなる。

 防衛相会談では、日本側から長年の懸案である自衛隊と韓国軍の物資・役務を相互に融通する物品役務相互提供協定(ACSA)の締結を持ち出すかもしれないが、李在明(イ・ジェミョン)大統領は5月に訪韓した高市早苗首相との会談で「国民感情を考えると現時点では受け入れることは難しい」と伝えており、本格的な議論には発展しないものとみられる。

 この件については李大統領は6月8日にも青瓦台(大統領府)で開いた就任1年の記者会見で「協定に対する国民の抵抗感が強い」とした上で、「私自身は現実的な必要性を感じている。しかし、このような話をすると叱られる。われわれの立場も理解してほしい」と述べていた。

 会談後は、小泉防衛相は安長官の選挙区であるソウル市東大門区の韓国国防研究院(KIDA)で、韓国の若い世代と安全保障について意見交換を行う方向で日程を調整しているとも伝えられている。さらに、滞在中には趙顕(チョ・ヒョン)外交部長官との面会も予定されている。

 今回の訪韓で最も注目されるのは、小泉防衛相が希望していると伝えられている板門店(軍事境界線)の視察が実現するかどうかである。

 小泉防衛相の訪韓が4月下旬頃から取り沙汰された際、筆者は6月1日付の本欄で、「小泉防衛相は訪韓時に板門店(軍事境界線)の視察を希望しているようだが、李政権が北朝鮮の反発を招きかねないこの訪問を認めるかどうかが、一つのバロメーターとなりそうだ」と指摘した。

 現時点では、滞在中に板門店や軍事境界線を視察するかどうかは明らかになっていない。ブラックイーグルスが所属する空軍部隊は北朝鮮と接する江原道・原州基地に所在しており、同基地視察の際に軍事境界線付近まで足を運ぶことは可能である。しかし、板門店と同様、北朝鮮側の監視カメラや望遠鏡で視察の様子を確認される可能性もある。

 在韓米軍や韓国軍の視察であれば問題はないが、この時期に日本の防衛相が軍事境界線を視察することには政治的リスクが伴う。何より、日本はこれまで首相を含め、閣僚、とりわけ防衛相が軍事境界線を視察した前例がないからだ。

 北朝鮮は連日、「労働新聞」や国営通信を通じて日本への批判を続けている。こうした状況下で、日本の防衛相による板門店視察が北朝鮮をいたずらに刺激すれば、反発を招き、対話再開の機会がさらに遠のく可能性がある。

 昨日の6月25日は朝鮮戦争勃発の日だった。北朝鮮は一貫して朝鮮戦争は米国が仕掛けたものだと主張しており、その「根拠」の一つとして、ダレス米国務長官が開戦5日前に軍事境界線を視察したことをたびたび持ち出してきた。

 北朝鮮との関係改善を目指す李在明政権は北朝鮮に対して敵対的な行動は取らないとの姿勢を打ち出している。そのため、小泉防衛相が希望しても、軍事境界線、とりわけ板門店の視察が認められる可能性は低いものとみられる。

 韓国では小泉防衛相は靖国参拝を躊躇わなかった小泉純一郎元首相の長男であり、自身も靖国神社への参拝を続けている政治家として知られる。このため、李政権与党内には小泉防衛相に対する警戒感が少なからず存在するとみられる。

 小泉防衛相は今回、ソウル滞在中に国立ソウル顕忠院を参拝する予定と伝えられており、靖国神社参拝への批判を和らげる狙いがあるとの見方もある。それでも、板門店視察の実現は容易ではないであろう。