2026年6月29日(月)
党の総会で公然と粛清された人民軍少将のミステリー
2025年2月に国防省を訪問した金正恩総書記
一週間前に閉幕した北朝鮮の党中央委員会第9期第2回総会では、党序列4位だった金才龍(キム・ジェリョン)氏が政治局常務委員、党書記、党組織指導部長の3つのポストをすべて解任され、最高人民会議常任委員長に転出したばかりの趙甬元(チョ・ヨンウォン)政治局常務委員が、わずか3カ月で党書記兼党組織指導部長に復帰したことが話題となった。
しかし、こうした人事以上に注目せざるを得ないのはこの日の会合で党中央軍事委員会の名で人民軍総政治局組織担当副局長が解任され、法機関に送検されたことである。この措置のほうが、より重大な意味を含んでいるように思われる。
党総会の場で人事異動が発表され、党や軍の幹部が解任・更迭されること自体は異例ではなく、北朝鮮ではむしろ一般的である。しかし、個人名を特定したうえで不正を指摘し、解任に踏み切るケースは極めて珍しい。
例えば、2020年2月に開かれた党政治局拡大会議では、政治局員の李万健(リ・マンゴン)氏が党組織指導部長を解任されたが、「党中央委員会政治局は李万健を現職から解任した」と発表されただけで、その理由は明示されなかった。
ただ、「最近、党中央委員会の一部幹部の間で我が党が一貫して強調してきた革命的な事業態度や活動作風とは全く縁のない、極度に官僚化した現象や権威主義的な振る舞いが現れている。また、我が党の中核幹部育成という重大な任務を担う党幹部養成機関において深刻な不正・腐敗事件が発生した」と報じられていたことから、李万健氏がその責任を問われたものと解釈された。
また、翌2021年6月に開催された党第8期第2次政治局拡大会議でも政治局常務委員の李炳哲(リ・ビョンチョル)氏が解任され、政治局員候補に降格した。しかし、この時も「党の決定と国家的な最重大課題の遂行を怠った一部の責任幹部の職務怠慢行為が詳細に通報され、党中央委員会の各総会で討議、決定した重要課題の貫徹で無知と無能力、無責任感を発露させた幹部に対する鋭い批判が行われた」と説明されただけで、名指しはされず、誰が職務怠慢を働いたのかは明らかにされなかった。(※李炳哲氏は翌2022年6月21日の党中央軍事委員会第8期第3次拡大会議で軍事委員会副委員長に就任している)
直近では、2024年7月の党中央委員会第8期第22回政治局非常拡大会議で李太燮(リ・テソプ)社会安全相が解任された。台風災害に関連し、「党と国家が付与した責任重大な職務の遂行を甚だしく怠って許せない人命被害まで発生させた」責任を問われたものとみられている。しかし、この時は「社会安全相に軍政指導部の方頭燮(パン・ドゥソップ)党第1副部長を据えた」と発表されたことで、李太燮氏の解任が明らかになった。
これら3つのケースと比較すると、不正・腐敗容疑で解任されたうえ、法機関に送検された政治総局組織担当副局長の朴煕哲少将のケースが、ただ事ではないことが分かる。
軍の最高政治機関である軍総政治局は朝鮮人民軍における政治監察機関であり、将兵への宣伝・扇動、党への忠誠心の評価、思想動向の監視を担当する組織である。また、軍保衛局とともに人民軍内の思想統制を管轄し、宣伝、検閲、党生活指導など政治活動全般を統括している。
その中でも組織指導部は党組織指導部の一部門として、総政治局及び軍内の党組織を党の指導・監督体制の下で管理・統制する役割を担う。総政治局組織部を通じて、軍における党活動、行政、保衛(保安)業務や幹部の能力・思想動向について随時報告を受け、それに基づいて対策を策定することが中核的な任務とされている。
朴煕哲副局長はその軍総政治局で組織を担当していた。
総局長は軍参謀総長及び国防相と並ぶ軍のトップ3の一角を占めているが、朴副局長の地位も相当に高い。党の長老である金己男書記が2024年5月に死去した際、金総書記を含む葬儀委員100人の名簿を見ると、朴副局長は少将でありながら、当時軍保衛局長だった趙慶普iチョ・ギョンチョル)大将や、海軍司令官だった鄭明道(チョ・ミョンド)大将よりも上位に名前が記されていた。ちなみに、金総書記の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏は49番目で、朴少将は12人の各市・道党責任書記に続いて62番目に名を連ねていた。
北朝鮮は連座制の国家である。連帯責任を徹底する体制であるにもかかわらず、朴副局長の直属の上司である金成基(キム・ソンギ)軍総政治局長や、今年2月の党大会で軍総政治局長から党中央軍事委員会副委員長へ異動した前任者の鄭京擇(チョン・ギョンテク)氏には現時点で何らのお咎めが見られないことには違和感が残る。
クーデターも画策できる政治将校のNo.2の地位にある李少将の解任には何か裏がありそうだ。
(参考資料:「回転ドア政権」の北朝鮮 お粗末な人事 序列4位の党組織部長を4か月で更迭 3位の国会議長も再選出へ)