2026年6月5日(金)
都知事選ではあり得ないソウル市長選の「世紀の逆転劇」 李在明政権下で野党現職はなぜ勝てたのか
大激戦を制し、ソウル市長に再選した呉世勲氏(出展:韓国「ニュース1」)
韓国の全国地方自治体選挙の開票状況を夜通しでみていたが、ソウル市長選挙の野党候補の劇的な逆転勝利には感動すら覚えた。野球に例えるならば、まるで逆転サヨナラ満塁ホームランを見たような思いがした。
東京都知事選挙は、1947年から2024年までに計22回行われている。最小僅差での当選は1967年で、革新系が推した美濃部亮吉候補が自民党推薦の松下正寿候補を破った際の2.76ポイント差である。美濃部候補が獲得した票は220万389票、松下候補は206万3752票で、その差は13万6637票だった。
都知事選は1983年以降は最低でも10ポイント以上の差がついており、接戦と呼ぶには程遠い状況が続いている。直近の2024年7月の都知事選でも、小池百合子知事が18.47ポイント(125万9652票)の差をつけて大勝していた。
それに比べると、今回のソウル市長選は大接戦だった。野党「国民の力」の現職、呉世勲(オ・セフン)候補(65歳)が、与党「共に民主党」の鄭愿伍(チョン・ウォノ)候補(57歳)を破り、再選を果たしたが、その勝利は史上まれにみる超僅差によるものだった。
中央選挙管理委員会によると、得票率は呉候補が49.15%、鄭候補が48.13%。得票数は呉候補が256万590票、鄭候補が250万7130票で、その差はわずか1.02ポイント、5万3460票だった。しかも、それは「奇跡」に近い逆転勝利だった。
選挙期間中に公表された各種世論調査では、呉候補は一貫して劣勢だった。投票後に公表されたKBS、MBC、SBSの3大ネットワークによる合同出口調査でも、鄭候補が51.4%、呉候補が46.0%と、5ポイント以上の差をつけられていた。
出口調査の結果が公表されると、支援者らは半ば諦めたのか、選挙事務所には空席が目立った。午後6時から始まった即日開票でも、開票率が50%に達した時点で両候補の差は20ポイントまで広がり、陣営では敗北宣言まで用意したといわれている。
ところがどっこい、開票開始から10時間後の午前4時過ぎ、呉候補が強い江南区の票が開き始めると状況は一変した。午前6時頃にはその差を2万8000票まで縮めたこともあり、選挙事務所には逆転を信じる支持者たちが再び集まり始めた。
さらに1時間後、テレビの選挙報道でアナウンサーが「大接戦となりました。呉候補が猛追し、その差は1万1000票にまで縮まりました」と伝えると、事務所は熱気に包まれた。拍手が沸き起こり、「勝てる!」「呉世勲ファイティング!」という支持者らの声が鳴りやまなかった。
そして開票開始から13時間後の午前7時16分、ついに呉候補は逆転に成功し、鄭候補に2069票差をつけた。出口調査を覆す世紀の大逆転を目の当たりにした支持者からは、「勝った!」「万歳!」という歓声が飛び交った。
韓国の選挙では、通常は午前3時頃には大勢が判明する。どんなに遅くても午前5時頃には当落が判明するといわれており、午前7時台にまでもつれ込むことは極めて珍しい。
ソウル市内25区のうち15区で負けながら、なぜ呉候補は大逆転を果たすことができたのか。その勝因を探ると、いくつかの要因が浮かび上がる。
第一に、大票田である「江南3区」(江南区、瑞草区、松坡区)で圧倒的な強さを見せたことだ。
鄭候補が25区のうち15区を制したとはいえ、その多くは1〜2万票程度の僅差だった。一方で、呉候補は江南3区だけで鄭候補に22万票もの差をつけた。
具体的には、江南区で65.98%(19万2934票)対31.92%(9万3336票)、瑞草区で64.58%(15万7000票)対33.19%(7万6979票)、松坡区で54.77%(18万8827票)対42.96%(14万8114票)だった。
第二に、呉候補を支持する20代、30代の投票率が高かったことだ。
ソウル市長選の投票率は63.6%で、全国16の広域市・道の中でも5番目に高かった。選挙戦終盤に官製主導のスターバックス不買運動騒動が起きたことで、これに反発した若者が投票所へ足を運んだことも影響したものとみられる。
出口調査によると、20代男性の75.3%、30代男性の66.8%が呉候補に投票していた。一方、20代女性では鄭候補が48.5%、呉候補が41.4%だったが、30代女性では呉候補が53.6%、鄭候補が42.8%と逆転していた。
第三に、鄭候補が同じ進歩系政党「正義党」の權英國(クォン・ヨングック)代表との候補一本化が実現しなかったことだ。
權候補の得票率は1.03%だが、得票数は5万4149票に上った。呉候補と鄭候補の差がわずか5万3460票だったことを考えると、權候補(62歳)が立候補を取り下げていれば、結果は変わっていた可能性が高い。
与党「共に民主党」は2022年の大統領選挙でも、当時の李在明(イ・ジェミョン)候補が対立候補の尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補に0.7ポイント(約24万票)差で敗れた。このときも、2.38%(約80万票)を獲得した正義党候補との一本化が実現しなかったことが敗因の一つとされていた。
過去の教訓から学ばず、あてにならない世論調査を過信し、「単独でも勝てる」という慢心が裏目に出たと言えなくもない。