2026年3月10日(火)
米国はイランのようには北朝鮮への先制攻撃はできない
トランプ大統領と金正恩総書記(労働新聞とホワイトハウスから筆者キャプチャー)
米国の北朝鮮政策の究極的な目標は、北朝鮮の核放棄にある。そのため米国はクリントンからブッシュ、オバマ、トランプ、バイデンの歴代政権を通じて「先制攻撃の選択肢は排除しない」と言明してきた。
確かに、誰もが認めるように米国にはその能力がある。だが、北朝鮮に対してイラクやイラン戦争のような手法が取れるかといえば、現実的には不可能に近い。
先制攻撃であれ、北朝鮮との局地戦争であれ、北朝鮮の反撃は避けられない。例えば、オバマ政権下の2009年4月のテポドン発射後に訪朝した米高官に対し、北朝鮮の高官は「迎撃されれば日米のイージス艦を撃沈する態勢にあった」と伝えていた。まだ先代の金正日(キム・ジョンイル)総書記が健在な頃である。
それから数年後に公開された北朝鮮の記録映画を見ると、後に後継者となる当時25歳の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が、ミサイル発射を父親とともに平壌の管制総合指揮所で参観していた。映画では「仮に迎撃された場合、戦争する決意であった」とする当時の金正恩氏の発言がナレーションで紹介されていた。
クリントン政権下の1994年の北朝鮮核危機で、北朝鮮に対する先制攻撃論を展開していたタカ派の一人、アシュトン・カーター元国防長官は、2006年に北朝鮮が核実験を行った後、持論を変えた。韓国紙「中央日報」(2007年1月7日付)のインタビューで「北朝鮮の核兵器を効果的に除去するための外科手術的攻撃は、もはや不可能である」と嘆いていた。
北朝鮮は1994年当時と違い、核とミサイルを保有しているため、韓国に対してだけでなく、同盟国である日本、さらには米本土への核攻撃も可能になったとみられるからだ。
また、北朝鮮の核報復を招きかねない先制攻撃や軍事力の行使には、米国世論の半数以上が反対していた。オバマ政権当時の米国内世論調査を見ると、回答者の46%が北朝鮮の政権打倒を目的とした軍事攻撃に反対していた。「賛成」と答えたのは36%だった。
従って、オバマ大統領は北朝鮮が2009年、2012年と核実験を繰り返しても、北朝鮮攻撃には踏み切れなかった。
オバマ大統領は2015年1月22日のユーチューブのインタビューで「軍事的な解決は考えていない」と強調し、その理由について「同盟国の韓国が北朝鮮と隣接しており、もし戦争が勃発すれば想像を絶する深刻な被害を受けるからだ」と説明していた。
というのも前年の7月27日の休戦協定締結日に故金日成(キム・イルソン)・金正日(キム・ジョンイル)親子の遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿前での陸海空軍および戦略軍の決意大会で当時の軍トップであった黄秉西(ファン・ビョンソ)人民軍総政治局長(次帥)が「もし米帝が核航空母艦や核攻撃手段で我々の自主権と生存権を脅かすなら、我が人民軍隊は悪の総本山であるホワイトハウスとペンタゴン、さらに太平洋上の米軍基地や米国の大都市に向けて核弾頭ロケットを発射するだろう」と発言していたからだ。
たとえこれがハッタリ、あるいはブラフであったとしても、安全保障に関わるだけに米国としては軽視できない。実際、その後北朝鮮は米国全土(50州)に届く射程を持つとされる核戦力を整備し、同時に米本土に到達可能な「火星」と呼ばれる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発し、すでに実戦配備までしている。
戦争による被害は朝鮮半島にとどまらない。同盟国の日本にも、さらには米国自身にも及ぶ。いかに米国に先制攻撃の能力があったとしても、それを実行することは、もはや不可能に近いのではないだろうか。