2026年3月13日(金)

 後継者だから13歳の娘に射撃をさせるのか?

金正恩総書記の娘(朝鮮中央通信から筆者キャプチャー)

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記の「ジュエ」と称される娘が初めて姿を現したのは、新型大陸間弾道ミサイル「火星17型」が発射された2022年11月18日だった。この時は「なぜこのような物騒な場所にかわいい娘を連れて来るのか」と、随分と不思議がられていた。

 娘は韓国の情報機関、国家情報院(NIS)によると2013年生まれで、当時は9歳前後だった。

 NISは、金総書記が娘をICBMの発射場に連れてきた理由について「未来の世代の安全保障に責任を持っていることを示すためだ」と、国会情報委員会で「国民の力」の幹事だった劉相凡(ユ・サンボム)議員に説明していた。

 おそらく、労働新聞(11月20日付)に「労働党の厳粛なる宣言」と題する正論が掲載され、そこで北朝鮮のミサイル発射が「後世の明るい笑い声や美しい夢」「明るい未来」を守るための「自衛的な抑止力」と規定されていたことを踏まえた分析なのであろう。

 娘は続いて26日には、「火星17型」発射の成功に寄与した科学者・技術者らと記念写真に収まっていた。元旦放送の朝鮮中央テレビを見ると、父親の弾道ミサイルの武器庫視察にも同行していた。

 最初に登場した時、北朝鮮のメディアは娘を「愛するお子様」と呼んでいたが、2度目の記念写真の際には「尊貴なるお子様」に変わり、その時の宴会では「尊敬するお子様」と呼称していた。

 敬称がグレードアップし、それも金総書記にしか与えられない「尊敬」という敬語が付けられていたことから、「後継者ではないか」との憶測が飛び交うことになった。ちなみに、李雪主(リ・ソルジュ)夫人には「尊敬する」という修飾語が付けられたことは一度もなかった。

 娘の公開活動は、デビューした年(2022年)は2回のみだったが、その後は2023年に19回、2024年に14回、2025年に13回と、コンスタントに年10回以上は表舞台に登場している。今やNISを含め、多くの専門家が金総書記の後継者とみなしている。

 今年は、錦繍山太陽宮殿参拝(1月1日)と新年祝賀公演(1月1日)を皮切りに、大口径ロケット砲試射(1月27日)、セッピョル通り竣工式(2月15日)、和盛地区第4段階1万世帯住宅竣工式(2月16日)、第9回党大会軍事パレード(2月25日)、要指導幹部への贈り物授与式(2月28日)、国際婦人デー記念公演(3月8日)、駆逐艦「崔賢」号の巡航ミサイル発射(3月10日)、重要軍需工場視察(3月11日)と急増し、その回数は早くも9回に達している。

 金総書記が娘を後継者扱いしているのならば、不自然なことではない。それでも解せないのは、まだ幼い少女を頻繁に軍関連の視察に引っ張り出していることだ。

 百歩譲って、ミサイルは遠く離れた指令室から打ち上げる様子を見せるだけで、軍事パレードもまた軍人の行進や飛行隊のアクロバット飛行、そして夜空に打ち上がる花火を見せるという意味で、さらに駆逐艦もクルージング感覚で連れてきたと考えれば、ある程度理解できなくもない。だが、狙撃銃や小銃まで渡して軍や党幹部らと並んで射撃をさせることについては理解不能だ。

 国営放送「朝鮮中央放送」の報道によれば、主要指導幹部への贈り物授与式では、式が終わった後、金総書記は指導幹部らと射撃場に出て、狙撃武器の射撃をしながら時間を共に過ごしたようだ。配信された写真を見ると、娘も射撃場で父や叔母、幹部らに交じって狙撃銃を手にし、射撃をしていた。

 また、重要軍需工場では、生産を始めた新型拳銃の性能を金総書記自ら引き金を引いて確かめていたが、娘まで射撃をしていたから驚いた。

 朝鮮労働党の理論雑誌「勤労者」2025年3月号には、「朝鮮労働党は領導の継承問題を正しく解決した偉大な党である」と題する記事が掲載されていた。そこには、先代の金正日(キム・ジョンイル)前総書記が「早い時期から敬愛する金正恩同志を主体革命偉業を代々継承する偉大な継承者に育てることに深い関心を寄せ、心血を注いでいた」と書かれていた。

 もし金正恩総書記が、軍内で後継者に定めた娘を本当に「新星・女性将軍」と呼ばせているのだとすれば、偶像化づくりの一環として娘に射撃をさせたとしてもおかしくはないのかもしれない。しかし、普通の感覚では理解しがたい。