2026年3月19日(木)

 イスラエルが恐れるイランへの北朝鮮の軍事支援 終戦後イランの国防再建に乗り出すかも

軍需工場を視察する金正恩総書記(朝鮮中央テレビ)

 米国とイスラエルがイランを攻撃したことについて、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、2月25日に閉幕した第9回党大会での演説で「米国の覇権政策によって多国間体系を根幹とする現存の国際秩序と国際関係の構図には深刻な変化が起きており、正義の基準や力の価値に対する再評価がなされている」と指摘した。そのうえで、「支配と隷属に反対し、自主と平等、独自性を実現しようとする進歩的人類の志向は、覇権勢力のあがきに正比例して一層強烈になるだろうし、その中心に我が国が立っている」と述べ、米国の覇権主義に挑戦状を突きつけていた。

 北朝鮮としては、中東に唯一残った友好国であるイランに今すぐにでも軍事物資を送り届けたいところだが、交戦状態にある現状では、また金総書記がトランプ大統領と個人的に良好な関係にあることもあり、実行できないのが実情である。しかし、終戦となり、トランプ政権の対北敵視政策が続くならば、破壊されたイランの国防再建に乗り出す可能性が高い。

 北朝鮮は1987年から1992年にかけてイランやシリアなどにミサイルを売却していた。中東への武器輸出は、1980年から1993年までの総輸出額240億ドルのうち30%を占めていた。しかし、2009年6月の国連安保理決議「第1874号」により、すべての兵器および武器の輸出が全面禁止された。

 それでも北朝鮮は、2009年8月にイランへロケット発射装置や起爆剤などをバハマ船籍の貨物船で運ぼうとしたが、経由地のアラブ首長国連邦(UAE)で発覚し、押収された。また同年12月には、携帯式地対空ミサイル「SA−7」や対戦車ロケット砲(RPG−7)などを積み、イランに向けて平壌を飛び立った貨物機(IL−76)が、給油地のタイ・バンコク空港で押収されている。搭載されていた兵器は重量にして35〜40トンで、金額に換算すると日本円で16億〜17億円相当であった。

 これらはいずれも国連安保理決議に違反した密輸であるが、北朝鮮は2022年以降、ロシアに対して公然と武器を輸出している。しかもロシアは、同決議に賛成した常任理事国でありながら、自ら制裁を無視してこれを受け取っている。

 米国現地時間18日、米国国家情報長官室(DNI)が公表した「2026年年次脅威評価報告書」には、北朝鮮が2024年にクルスク地域でロシアの戦闘作戦を支援するため、1万1000人以上の兵力を派遣し、その期間にロシアへ砲弾や軍事装備、弾道ミサイルを提供した事実が明記されていた。

 北朝鮮がロシアに提供した兵器は、ウクライナに占領されたクルスクの奪還・防衛のための即戦力となる122mm(射程20km)、240mm(射程60〜65km)、300mm砲(射程180〜200km)の砲弾や携帯用対戦車ミサイル、北朝鮮版「イスカンデル」と呼ばれる戦術誘導ミサイル「KN−23」が主体である。一方、今後イランが求める兵器は、迎撃ミサイルのほか、宿敵イスラエルを攻撃可能な巡航ミサイルや弾道ミサイル、さらには極超音速ミサイルになるとみられる。

 北朝鮮には、地上の移動式発射車両(発射管5基装着)から発射される長距離巡航ミサイル「ファサル2型」がある。これは8の字や楕円軌道を描くなど多様な方向に変則飛行し、しかも超低空で飛行するため、弾道ミサイルとは異なり探知・追跡・迎撃が極めて困難とされる。高度50〜100mという低空で目標に向かい、遠距離の目標を精密に攻撃できるこのミサイルは、米国の「トマホーク」と同等の性能を有するとされる。また、「プルファサル(火矢)3−31型」と命名された潜水艦発射巡航ミサイルも存在する。

 さらに北朝鮮は、「ポンゲ(稲妻)5」と呼ばれる地対空ミサイル「KN−06」から、中距離弾道ミサイル「火星12号」、SLBMを地上型に改良した「北極星2型」、極超音速滑空ミサイル「火星砲16ナ」に至るまで、多様なミサイル戦力を保有している。「KN−06」はロシアの「S−300」(射程距離100〜150km、迎撃高度25〜30km)に匹敵する性能を持ち、PAC−3(マッハ4〜5、射程距離20〜40km)とも類似しているとされる。

 一昨年4月、イスラエルの核施設への空爆に対する報復として、イランがテヘランに向けミサイル攻撃を行った際、米国務省のマシュー・ミラー報道官は「我々はイランと北朝鮮の核・ミサイル協力を信じ難いほど憂慮している」と発言していた。また、同日、米国防総省のパット・ライダー報道官も「北朝鮮とイランがもたらしている危機を深刻に受け止めている」と述べていた。

 米国以上に警戒しているのは他ならぬイスラエルである。

 第4次中東戦争では、イスラエルはエジプト・シリア連合軍に苦戦を強いられたが、その理由の一つとして、北朝鮮が武器を供与しただけでなく、軍事顧問団を派遣して戦略・戦術を提供し、さらには空軍兵士が直接戦闘に参加し、イスラエル軍と空中戦を行っていたことが挙げられている。

 イスラエルはその約20年後の1992年11月、当時の外務省アジア局長エイタン・ベントゥールを密かに平壌へ派遣し、イランへのミサイル売却の中止を要請しており、これがその証左とされる。

 北朝鮮はロシアへの派兵と軍需物資の輸出、即ち「ウクライナ特需」で最大で144億ドル(約2兆3000億円)の収益を得たと伝えられているが、次は「イラン特需」を狙っているものと思われる。