2026年3月22日(日)
トランプ大統領に協力を求めた高市首相は金正恩総書記に会えるのか?
高市早苗首相と金正恩総書記(労働新聞と首相官邸HPから筆者キャプチャー)
高市早苗首相は日米首脳会談で、トランプ大統領に拉致問題の即時解決に向けた協力を要請したことを明らかにした。これに対し、トランプ大統領は全面的な協力を約束したと伝えられている。
拉致問題がクローズアップされた2002年以降、ブッシュ政権からトランプ政権に至るまで、歴代大統領は全員、拉致被害者家族と面会し、問題解決への協力を表明している。中でもトランプ大統領は、第1次政権時の2018年6月に実現した史上初の米朝首脳会談の場で、金正恩(キム・ジョンウン)総書記に解決を直接働きかけた経緯がある。このため、トランプ大統領に協力を要請するのは当然の対応といえる。
一方、肝心の北朝鮮の対応だが、トランプ大統領だけでなく、文在寅(ムン・ジェイン)元大統領も南北首脳会談の場で拉致問題を取り上げた際、金総書記は「韓国やアメリカなど周りばかりが言ってきているが、(日本は)なぜ直接言ってこないのか」と不満を示したと伝えられている。
拉致問題は日本の問題である以上、米韓など周辺国の協力は日朝首脳会談を仲介することに限られる。その点は日本側も十分承知しており、今回も高市首相は「私自身が金正恩氏と直接会う意思が非常に強い」ことをトランプ大統領に伝えたとみられる。
高市首相の金総書記への「ラブコール」は今回が初めてではない。総理就任後の国会での施政方針演説や、拉致被害者家族との面談の場でも、「私の代で何としても突破口を開き、拉致問題を解決したい」と再三決意を表明し、その都度、首脳会談への意向を示してきた。本心であり、本気であることは疑う余地がない。
日朝首脳会談による拉致問題の解決は、金正日(キム・ジョンイル)前総書記との会談を2度(2002年、2004年)実現させた小泉純一郎政権以降、日本の歴代政権にとっての至上命題となっている。しかし、北朝鮮の閉ざされた扉をこじ開けることができないまま、今日に至っている。
北朝鮮は岸田文雄政権時代、「日本がすでに解決した拉致問題を両国関係の障害として据え続けないのであれば、関係改善を妨げる理由はない。(岸田)首相が平壌を訪問する日が来る可能性もある」との立場を示していた。しかし、その後、金正恩総書記の妹であり事実上の代理人とされる金与正(キム・ヨジョン)党副部長(現党総務部長)は、日本側高官の「全く受け入れられない」との発言に反発し、「今後、日本とのいかなる接触や交渉も拒否する」とする談話を2024年3月26日に発表して以来、公式には日本の呼びかけに応じていない。
原因は北朝鮮の姿勢が変わらないことに尽きるが、日本側が具体的かつ実効性のある働きかけを欠いてきたことも一因である。日本はこれまで北朝鮮に対し、対話と圧力の「二本柱」で対応してきたが、対話に向けた環境整備や具体的措置を講じるわけでもなく、また北朝鮮が譲歩を余儀なくされるような新たな制裁を強化することもなかった。結果として、「鳴くまで待とうホトトギス」に象徴されるような「戦略的忍耐」に終始してきたと言える。
それからすでに2年が経過し、首相も岸田首相から石破茂首相、そして高市首相へと交代した。しかし、残念ながら北朝鮮からの反応は依然としてない。むしろ、高市政権に対する反発は強まっているのが現状である。
高市政権が発足したのは昨年10月21日だが、今年2月までは月平均数件にとどまっていた北朝鮮メディアによる日本批判記事が、3月に入って一気に急増している。
1月は6日に「日本の軍備増強推進に『自滅的な妄想…再侵略策動の狂気』」、11日に「新軍国主義の終着点は『強い日本』ではなく滅びた日本である」、24日に小泉防衛相の訪米を批判した「自己破滅に至る愚かな行動」の計3本が掲載された。
2月も4日の「歴史を通じて見た千年来の敵、日本の罪悪」、10日の「我が人民の文化発展を妨げた日本の金属活字略奪蛮行」、13日の「日本の長距離ミサイル配備を非難 再侵略の準備」の3本にとどまった。
しかし今月は、4日に「歴史を通じて見た千年来の敵、日本の罪悪 武力による日本の朝鮮侵略の序幕―『雲揚号』事件」、13日に「同 日帝の朝鮮侵略政策の実行とつながる明成皇后殺害事件」と「地域の安全環境は日本軍国主義によって厳しくなっている」の2本、19日に「歴史を通じて見た千年来の敵である日本の罪悪 朝鮮占領の決定的前提をもたらした白昼強盗さながらの不法文書」、20日に「膨張した日本の軍需産業が世界に進出している」、21日に「日本の『平和理念』は埋葬された」と、計6本に倍増している。さらに、これまで用いられてきた「100年来の敵」という表現も、先月から「千年来の敵」へと変化している。
高市首相が日米首脳会談で言及した安倍晋三元首相も、在任中に「次は私が金正恩(国務)委員長に会う番だ」と意欲を示していたが、実現には至らなかった。
率直な疑問として、「拉致の安倍」とも称された安倍元首相にできなかったことが、果たして高市首相にできるのだろうか。何らかの秘策や妙案があるのだろうか。拉致被害者の家族は、その答えを今も待ち続けているのではないだろうか。