2026年3月23日(月)
北朝鮮はなぜ軍事偵察衛星を発射しないのか? その4つの理由
2023年11月に軍事偵察衛星を打ち上げた北朝鮮のロケット「千里馬1号」
北朝鮮の上半期の二大行事である労働党大会(第9回大会)と最高人民会議(第15期)が終了した。
党大会は2021年1月以来、5年ぶりに開催され、5年間の活動総括が行われた。米韓が注目した核・ミサイルを含む国防分野について、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、@共和国の核保有国としての地位を逆戻りできないよう永久的に確固たるものにした、A防衛力を近代化し、すでに獲得した軍事技術上の優位性をさらに高度化するうえで飛躍的成果を達成した、Bより精巧になった核兵器運用システムと高い即応性により、いかなる核非常事態においても自らの判断と目的に従い複数の対応案に基づいて核戦力を運用できるようになった――と述べた。そのうえで、「我々は戦争そのものを抑止する能力を有しており、いかなる勢力が我々を攻撃するならば、即時に報復できる万全の準備を整えた」と結論づけた。
前回の第8回大会では、次の党大会までの目標として、@核兵器の小型・軽量化と戦術兵器化の一層の発展、A中・大型核弾頭の生産、B核の先制・報復手段として、射程1万5000km圏内の任意の戦略目標を正確に打撃できる命中精度の向上、C極超音速滑空弾頭の開発導入、D水中・地上発射型の固体燃料大陸間弾道ミサイルの開発、E核による長距離打撃能力向上のための原子力潜水艦およびSLBMの保有、F軍事偵察衛星の運用による情報収集能力の確保と、500km範囲を精密偵察できる無人機の開発、G多弾頭ミサイルの開発――などを「公約」として掲げ、「国防科学発展および兵器システム開発5か年計画」を発表していた。
今回の党大会では、これらの目標がどこまで達成されたのか注目されたが、個々の具体的な評価には触れられていなかった。
北朝鮮はこの5年間で原子力潜水艦と軍事偵察衛星を除く多くの目標を達成したものととみられる。
原子力潜水艦については、完成・公開は党大会に間に合わなかったものの、金総書記が昨年3月8日に建造現場を訪れた際に外観が公開されており、完成は近いと考えられる。韓国国防研究院(KIDA)は公開写真を分析し、米海軍のロサンゼルス級攻撃型潜水艦に匹敵する6000トン級と推定している。
一方で不可解なのが軍事偵察衛星である。
金総書記は2023年5月16日、偵察衛星発射準備委員会を訪れ、「軍事偵察衛星の打ち上げ成功は、現在の安全保障環境から見て差し迫った課題である」とはっぱをかけていた。同年5月と8月の打ち上げは失敗したが、3度目となる11月には衛星が軌道投入に成功した。この際、朝鮮中央通信によれば、グアム上空からアンダーセン空軍基地やアプラ港など米軍主要施設を撮影したとされ、金総書記は「我々は万里を見通す『目』と万里を打つ『拳』を手中に収めた」と述べた。さらに同年12月の党中央委員会総会では「2024年に3基の偵察衛星を打ち上げる」とぶち上げていた。
しかし、2024年5月27日の4回目の打ち上げは、第1段エンジンの不具合により空中爆発し、再び失敗に終わった。翌日、国防科学院を訪れた金総書記は「作戦上必要な宇宙偵察能力の保有を放棄することはできない。闘争目標は必ず達成する」と強調し、科学技術者に対しても、軍事偵察衛星の保有は「国家の安全と直結した焦眉の課題」である」と力説していた。
それにもかかわらず、その後再発射は行われていない。失敗直後、国家宇宙開発局は「できるだけ早期に再発射する」としていたうえ、一部ではロシアからの技術協力の可能性も指摘されていた。1回から4回までは3か月から6か月のスパーンで発射していたのに4度目の失敗から約2年が経過しても再挑戦が行われていないのは不可解である。
理由としては、@新型液体酸素・石油エンジンの信頼性がなお確立されていない、A国連制裁により部品調達が困難でロケットや衛星の完成が遅れている、B米朝首脳会談の可能性を見据え、トランプ政権を刺激しないよう自制している、Cロシアの衛星利用へと方針転換した――などが考えられる。
もっとも、第9回党大会で提示された新たな国防発展計画(2026〜2031年)には、「敵の指揮中枢を麻痺させる強力な電子戦システム」や「さらに高度化した偵察衛星」が盛り込まれていた。
核とミサイルでは有言実行を公言してきた金総書記の面子に関わるだけにいずれ軍事偵察衛星の再挑戦に踏み切ることは確実だろう。加えて、米国とイランの軍事衝突を目の当たりにし、その重要性を再認識したことであろう。
では、北朝鮮が日米韓の軍事基地や動向を空から監視する偵察衛星を再び打ち上げた場合、トランプ大統領は一体、どのように対応するのだろうか。