2026年3月24日(火)

 対応次第では高市首相の平壌訪問は可能!? 意味深な「金与正談話」

金与正党総務部長(労働新聞から)

 北朝鮮は日本の対話の呼びかけに対し「相手にしない」と無視する姿勢を取り続けているが、興味深いことに、ときおり言葉とは裏腹に反応を示してくることがある。

 高市早苗首相が日米首脳会談の場で拉致問題を取り上げ、「金正恩氏と直接会いたい」との意向をトランプ大統領に伝えると、金正恩総書記の妹で事実上の代弁者でもある金与正党党総務部長が即座に反応した。それも実に2年ぶりのことである。

 岸田文雄政権下の2024年1月、金総書記が岸田首相宛てに「日本国総理大臣岸田文雄閣下」と丁重に呼びかけ、能登半島地震への見舞い電を送ってきたことは記憶に新しい。

 これまで日本に対して一度も思いやりの言葉を発したことのなかった金総書記が、「新年早々の地震による多くの人命被害と物的損失に接した」として「深甚なる同情と見舞い」を表明し、「被災地の人々が一日も早く安定した生活を回復することを祈る」と述べたことは、日本にとって驚きであった。

 中国やロシア、キューバなどの同盟国に対して見舞いを送ることはあっても、西側諸国、それも国交のない日本に対し、「1000年来の敵」と位置付けてきた相手国の首相に「閣下」の敬称を付してメッセージを送るのは極めて異例であった。

 「ありとあらゆるチャンスを生かす」をモットーとしてきた日本政府はこれを好機と捉え、林芳正官房長官(当時)に続き岸田首相も金総書記に謝意を表明した。ミサイル発射に対する抗議を繰り返してきた日本政府が、金総書記に感謝を示すのもまた異例であった。

 この前例のない「エールの交換」に対し、横田めぐみさんの母・早紀江さんは「ぜひ活用して活路を開いてほしい」と期待を寄せた。岸田首相も国会で「日朝関係を大胆に変える必要がある。自ら主体的に動き、金正恩委員長との関係構築に取り組む」と決意を示した。

 この発言に反応したのが金与正氏であった。今回同様に個人的見解と断りつつ、「岸田首相の発言が過去の束縛から脱却し関係改善を図る真意に基づくものであれば、肯定的に評価され得る」とし、「拉致問題を障害としないならば、首相の平壌訪問もあり得る」との談話(2月15日)を発表した。さらに約1か月後の談話(3月25日)では、「会いたいと願うだけで実現するものではない」とし、日本側に真剣な対応を求めた。

 しかし、林官房長官が「北朝鮮の主張は受け入れられない」と発言すると、翌26日、金与正氏は一転「日本には新たな関係を築く勇気がない」と批判し、「いかなる接触や交渉も拒否する」と態度を硬化させた。

 今回の2年ぶりの談話でも「日本が望んでも実現する問題ではない」と従来の主張を繰り返しつつ、「一方的な議題を押し付けるならば会う意思はない」と強硬姿勢を示している。

 この流れからすれば、高市首相のラブコールを拒否する可能性は高い。しかし、古い慣行と決別し、思考を転換せよとの発言には、裏を返せば条件次第で対話に応じる余地を残しているとも読み取れる。何よりも「相手にしない」と言っていたのに反応してきたことが興味深い。

 元毎日新聞外信部副部長の西岡省二氏も、金与正氏の発言について「条件次第では対話の可能性があるというメッセージ」と読んでいたが、この見方には説得力がある。 

 また、「日本の首相が平壌に来る光景を見たくない」との発言も、逆説的に言えば「平壌に来るのを見たい」と解釈できなくもない。

 金総書記は妹の談話発表の直前、最高人民会議での演説で「変化する国際情勢に対応し、国益を最優先に自主的な外交を展開する」と述べ、「従来の枠組みにとらわれない新たな外交戦術の必要性」を強調していた。

 こうした発言を踏まえれば、工夫次第で日朝首脳会談の可能性は残されていると言えよう。拉致被害者家族のためにも、日本政府はこの機会を生かすべきではないだろうか。

(参考資料:トランプ大統領に協力を求めた高市首相は金正恩総書記に会えるのか?)