2026年3月25日(水)
米国が北朝鮮のミサイル基地をイランのようには簡単には攻撃できない理由
潜水艦にSLBMを搭載する現場に立ち会う金正恩総書記(左)(朝鮮中央テレビから)
日韓などのメディアは、昨日閉幕した最高人民会議第15期第1回会議での金正恩(キム・ジョンウン)総書記の演説の中から「核保有国の地位を絶対不退のものとして引き続き強化する」との発言をクローズアップして伝えていた。
金総書記が「核を放棄する」と宣言するとは思っておらず、「核保有国の地位を堅持する」との発言は想定内のことであり、驚きには値しない。国際社会では、北朝鮮の核開発と核保有はとっくに既成事実化されているからである。
北朝鮮は、党規約や憲法にも核保有を明記しており、金正恩体制が変わらない限り、100%放棄させることは事実上不可能に近い。イランのように武力行使という手段もあるが、反撃されれば、米国も日韓もとてつもない犠牲を払うことになる。仮に人類初の核戦争に発展すれば、その人的・物的被害は想像を絶する。
通常戦力で劣る北朝鮮は、戦争になれば核を使用すると公言している。さらに戦争前であっても、以下のような事態に直面した場合には、迷わず核ボタンに手を掛けると、2022年9月に開かれた最高人民会議(7〜8日)で金総書記は述べている。
その1.国家指導部および国家核戦力指揮機構に対する敵対勢力の核および非核攻撃が強行される、あるいは差し迫っていると判断された場合。
その2.国家の重要戦略施設に対する致命的な軍事攻撃が強行される、あるいは差し迫っていると判断された場合。
その3.有事の際、戦争の拡大と長期化を防ぎ、主導権を掌握するため、作戦上必要不可避と判断された場合。
その4.国家の存立と人民の生命・安全に破局的な危機を招く事態が発生し、核兵器で対応せざるを得ない不可避な状況が生じた場合。
要するに、通常兵器であれ攻撃されれば、報復手段として無条件に核を使用する姿勢を鮮明にしただけでなく、そうした脅威が差し迫っていると判断した場合でも、核を使用する可能性があることが明らかにされている。すなわち、イランのように指導者が殺害され、首都が空爆され、国家存亡の危機に瀕した場合には、躊躇なく核ミサイルで反撃するということである。
米韓の軍事専門家の間では、米国とイスラエルの連合軍が開戦1週間でイランの防空システムの80%、ミサイル発射拠点の60%を破壊したことから、北朝鮮のミサイル基地にも同様の対処が可能と考えられている。しかし、北朝鮮のミサイル基地は全国各地に分散されている。2014年以降、ミサイルが発射された地点を数えると、確認されただけでも47か所に上る。
北朝鮮は国土の70%が山岳地帯である。中国と国境を接する慈江道で4か所、咸鏡北道で9か所(北部2か所、南部7か所)、江原道で5か所、平安道で21か所(北部6か所、南部15か所)、黄海道で8か所(北部3か所、南部5か所)から、これまで短距離・中長距離・大陸間弾道ミサイル、巡航ミサイル、戦術誘導ミサイル、極超音速滑空ミサイルなどが発射されている。このほか、様々な種類の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も保有している。
ミサイルは移動式発射台だけでなく、湖中や走行中の列車からも発射可能である。さらに、短距離弾道ミサイルと同じ能力を持つ、射程450kmの600mm超大型ロケット弾、無人水中攻撃艇「ヘイル」、戦略巡航ミサイル「ファサル1」「ファサル2」、戦術誘導ミサイルには、約10キロトン級の戦術核「火山ー31」を搭載できるとされる。
北朝鮮の短距離ミサイルは数分で韓国南端の釜山に到達し、ノドンミサイルやスカッドERは10分程度で日本に到達する。ICBMは発射から約30分で米本土に到達するとされる。
仮に北朝鮮がEMP(電磁パルス)兵器を使用した場合、韓国軍の指揮通信網や防空システムを含め、対象地域の電気・電子機器が機能不全に陥り、電力網や通信・電算網も無力化される。北朝鮮は2017年に「航空母艦の船団を一挙に無力化できる」と豪語していた。金正恩総書記も同年、核兵器研究所を視察した際、「戦略的目的に沿って空中で爆発させ、広範囲に超強力なEMP攻撃を加えることができる」と述べていた。
北朝鮮は、長崎に投下されたプルトニウム型核爆弾や、広島に投下されたウラン型核爆弾に相当する核兵器を保有しているとされる。
長崎の爆弾は推定約22期ロトンで、1945年末までに約7万4千人が死亡し、広島では同年末までに約14万人が死亡した。さらに、これらを大きく上回る約200機ロトン級の水素爆弾も保有しているとみられる。核爆弾の数は数発ではなく、少なくとも30発から60発を保有していると推定されている。
米軍の戦力がいかに最先端であったとしても、北朝鮮のミサイル基地を一つ残らず完全に叩き潰すことは不可能に近いであろう。