2026年3月28日(土)

 イランの中距離弾道ミサイルと北朝鮮のそれとは別物!知られざる2018年当時の「不仲」

北朝鮮の「ムスダム」(左)とイランの「ホラムシャハル4」(出典:労働新聞とイラン国防省)

 イランがインド洋のディエゴガルシア島にある米英共同基地に向けて発射したミサイルは、中距離弾道ミサイルとみられている。同島はイランから約4000km離れていることから、イランはこれまで想定されていた2000kmよりも、ミサイルの射程を約2倍に延ばしたことになる。

 射程距離が4000kmであることから、「北は、西側で「ムスダン」と呼ばれている北朝鮮の「火星10号」をモデルにしている可能性があると推測されている。

 確かに、いずれも1段式で速度はマッハ16〜17と変わらないが、「ムスダン」が固体燃料を使用しているのに対し、「ホラムシャハル4」は液体燃料を使用している。外形も異なり、「ムスダン」は先端が楕円形であるのに対し、「ホラムシャハル4」は尖っている。

 「ムスダン」は2010年10月の労働党創建65周年の軍事パレードで初めて公開され、2013年4月には米韓合同軍事演習「フォー・イーグル」に対抗して、米国を核攻撃できる能力を誇示する目的で、日本海に面した元山周辺に配備されたことがあった。ただし、性能が十分に検証されないままであった。「ノドン」や「テポドン」とは異なり、一度も発射実験が行われていなかった。

 北朝鮮が本格的に試射を開始したのは、2016年2月に最高司令部が、核ミサイルの攻撃目標として、第一次を「青瓦台(大統領府)と韓国の主要施設」、第二次を「太平洋上の米軍基地および米本土」と定めた重大声明を発表してからである。この年の4月から10月までに8回の試射が行われ、そのうち7回は失敗に終わった。成功したのは2016年6月22日の1回のみである。

 この成功例ではロフテッド方式(高角度)で発射され、高度1400km以上に達し、発射地点から約400kmの地点に着弾した。これを通常の角度(約45度)で発射した場合、射程は4000kmに達すると推定された。

 当時、米国防総省のジェフ・デイビス報道官は「成功したようだ」とコメントし、北朝鮮もまた、発射したミサイルが中長距離戦略弾道ロケット「火星10号」であることを初めて明らかにした。北朝鮮の対外宣伝媒体「朝鮮の今日」は、成功から2日後の24日、米国を核ミサイルで攻撃するCG映像を公開していた。

 「ムスダン」の発射に初めて立ち会った金正恩総書記は、「太平洋作戦地帯において米国を現実的に攻撃できる確実な能力を手にした」と述べたうえで、「先制核攻撃能力を持続的に拡大・強化し、多様な戦略攻撃兵器を引き続き研究開発すべきだ」と指示した。しかし、その後10月に行われた2回の試射はいずれも失敗に終わっている。結局「ムスダン」の開発は不完全燃焼のまま終了し、生産には至っていない。

 北朝鮮とイランの関係は伝統的に良好であり、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長が軍事専門家を伴って2017年8月にイランを訪問し、最高指導者アリ・ハメネイ師やハッサン・ロウハニ大統領と会談するなど、2017年までは関係強化が図られていた。

 しかし、2018年6月に金総書記がシンガポールでトランプ大統領と会談し、米国による安全保証と引き換えに「完全な非核化」を約束したことで、両国関係には微妙な変化が生じた。イラン側は、北朝鮮指導部が米国と交渉する姿勢に対して不満を示したためである。

 当時、イランは北朝鮮に対し「米国の本質を楽観視すべきではなく、慎重に対応すべきだ」と警告していた。また、革命防衛隊のジャファリ司令官(当時)はトランプ政権の「北朝鮮を見習ったどうか」との対話呼びかけに対して「イランは会談を受け入れた北朝鮮とは違う」と述べ、距離を置く姿勢を示していた。

 その後、イランのザリーフ外相は、2019年2月にベトナムで行われた第2回米朝首脳会談が決裂したとの報を受け、「北朝鮮はトランプ大統領の見せかけの政治ショーや突発的な政策変更が真剣な外交とは異なることに気づくべきだった」とツイートしている。

 両国関係は2019年8月に、朴哲民(パク・チョルミン)最高人民会議副議長(当時)のイラン訪問と議会要人との会談によって修復に向かった。さらに、2020年1月3日、革命防衛隊コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官が米軍の無人機攻撃で殺害され、イランが報復としてイラクの米軍拠点を弾道ミサイルで攻撃した際には、金総書記がイランのライシ大統領に宛てて見舞い電を送り、連帯を表明した。ロイター通信が「イランと北朝鮮がミサイル分野での協力を再開した」と報じたのは、同年9月である。

 北朝鮮がイランから資金提供を受けてミサイル開発を進め、その見返りとして設計図や技術を供与していた可能性は否定できない。しかし、国連安全保障理事会の制裁と監視体制、さらに北朝鮮が新型コロナウイルス対策で事実上の鎖国状態にあったことを踏まえると、近年、完成したミサイルそのものがイランに輸出された可能性は低いと考えられる。ましてや完成しなかった「ムスダン」の売却はあり得ないのではないだろうか。