2026年3月30日(月)
「日本と北朝鮮」は「イランとイスラエル」のような関係ではない
高市早苗首相と金正恩総書記(首相官邸HPと労働新聞から筆者キャプチャー)
防衛省が長射程ミサイルである12式地対艦誘導弾を熊本市に配備し、また静岡県に「島しょ防衛用」と呼ぶ地対地ミサイルを配備、さらに来年度以降は北海道や宮崎県の自衛隊駐屯地などにも長射程ミサイルを順次配備することを決定したことについて、北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」は3月13日、「地域の安全環境は日本軍国主義によって厳しくなっている」と批判した。
日本の水島光一駐韓大使は、2週間後の3月27日、ソウル市内で記者団体「寛勲クラブ」が主催した討論会に出席し、北朝鮮のみならず韓国の進歩派団体で懸念されている憲法改正の動きと関連した日本の軍事大国化への危惧について、「日本国民の誰も再び軍事大国化したいとは思っていない」ときっぱり否定した。
韓国は自由主義陣営に属し、李在明(イ・ジェミョン)政権と高市早苗政権のシャトル外交が復活して良好な関係が築かれていることから、水島大使の発言によって韓国側の懸念は一定程度払拭され得る。一方で、北朝鮮は日本に対して異常なほどの警戒心を抱いている。
日本は12式ミサイルの配備を抑止・防衛目的と説明しているが、北朝鮮は「海上の目標のみならず港や飛行場など地上の固定目標も打撃できる多目的能力を有しており、明白に長距離攻撃型兵器である」と評価し、「この計画が現実化すれば、日本は周辺国を射程圏内に収めるミサイルを列島全域に配備することになる」と主張している。
また、「島しょ防衛用」対艦ミサイルについても、「自衛隊が保有するミサイル駆逐艦や護衛艦、地上移動発射装置、戦闘機などあらゆる発射手段に搭載可能であり、その射程は日本で米国のトマホーク巡航ミサイルに次ぐ長射程となる」と分析した。そのうえで、「長距離打撃手段の着弾点が、日本が『切迫した脅威』『前例のない最大の戦略的挑戦』と名指しした我々を含む周辺国であることは言うまでもない」と警戒感を示した。
12式ミサイルの配備は、「北朝鮮は核兵器の小型化・弾頭化を実現し、これを弾道ミサイルに搭載して我が国を攻撃できる能力をすでに保有している」(防衛白書)ことへの反撃能力、すなわち敵基地攻撃能力の一環であることは広く認識されている。
「敵基地攻撃能力」の保有については、鳩山一郎内閣(1956年)以来、「他に手段がない場合に限り、法理的には自衛の範囲内」とする政府見解が維持されている。したがって、日本領土に対するミサイル攻撃が行われた場合、この解釈に従えば北朝鮮の基地を攻撃することも憲法上許容されるとされる。
かつて北朝鮮の李スヨン外相が2014年8月、ミャンマーで当時の岸田文雄外相に対し「我々のミサイルは日本を対象としたものではない」と言明したが、それをそのまま信じる日本国民はほとんどいないだろう。
日本も北朝鮮も互いのミサイル配備を警戒しているが、両国がイスラエルとイランのようにミサイルを撃ち合う必然性はない。日朝関係は、イスラエルとイランのような不倶戴天の関係でもなければ、領土問題や資源紛争、宗教対立も存在しない。国交はないものの、双方は主権国家として相手を認識している。また、日本は米韓と北朝鮮の関係のような交戦状態にもない。
例外があるとすれば、米国が北朝鮮に対して軍事攻撃を行い、その際に日本国内の米軍基地が使用される場合である。また、台湾有事に際して日本が集団的自衛権を行使して米国を後方支援し、北朝鮮もロシアへの派兵と同様に「中朝友好協力及び相互援助条約」に基づいて軍事介入する場合などが想定される。
朝鮮半島や台湾で紛争が発生すれば、沖縄から米海兵隊、横須賀から米空母、さらに三沢などの在日米軍基地から戦闘爆撃機が出撃する。日米安全保障条約が適用され、日本は補給・兵站・後方支援の拠点となる。武器弾薬や燃料などの軍需物資が日本から運ばれ、事態がエスカレートすれば自衛隊の出動もあり得る。
その場合、湾岸戦争で米軍に協力した結果イラクからミサイル攻撃を受けたサウジアラビアや、現在イランから攻撃対象とされているクウェートなど湾岸諸国と同様の状況に置かれる可能性が高い。韓国に亡命し2010年に死去した黄ジャンヨプ元労働党書記が、生前「朝鮮人民軍は戦争が起きれば、日本などに駐留する米軍基地を攻撃して無力化することが勝利につながると考えている」と証言していたことからも、それは明らかである。
米朝関係が緊張状態にあった第1次トランプ政権下の2017年5月、北朝鮮外務省は「これまで日本にある米国の侵略的軍事対象(軍事基地)のみが我々の戦略軍の照準内にあったが、日本が現実を直視せず米国に追従し敵対するなら、標的は変わらざるを得ない」と日本を威嚇したことがあった。
実際、同年3月6日には平安北道・東倉里からスカッドERが4発発射され、そのうち3発が約1000km飛行して日本の排他的経済水域に落下した。北朝鮮はこれを「在日米軍基地を狙った演習」と公言していた。
これまで日朝間では、国民の生命・安全・財産に直結するミサイル問題など安全保障について真剣な協議が行われてこなかった。外交交渉も、安倍政権下の2014年以来、拉致問題の行き詰まりによって中断したままである。
戦時下においても敵同士が対話を行うことはある。平時にある日朝が対話できない理由はないはずだ。無意味なバトルを繰り返すのではなく、一度正面から向き合うべきではないだろうか。