2026年3月5日(木)
トランプ政権が見送った平昌五輪後の「北朝鮮攻撃プラン」
ハノイでの2度目の米朝首脳会談(朝鮮中央通信から)
トランプ大統領は「イランが核を持つのは許さない」としてイランを攻撃した。「イランは世界一のテロ支援国」(トランプ大統領)というのがその理由のようだ。
しかし、世界一ではないが、北朝鮮もまた米国の「テロ支援国」リストに載っている。しかも、イランと異なり北朝鮮は核開発の段階ではなく、すでに30〜50発の核兵器を保有している。明らかにイランと北朝鮮とでは、米国の対応は異なる。
それでもトランプ大統領は、2017年に大統領に就任する前から「金正恩は精神がおかしい。狂人がこれ以上、核を持ってふざけないようにさせるべきだ」と発言していた。さらに大統領に就任すると、北朝鮮が「賢明でない行動」をした場合や、ICBMで米国を脅かす場合には、「今すぐに世界が見たことのない火炎と激しい怒りに直面するだろう」と、北朝鮮に警告を発していた。
しかし、米国の歴代政権とチキンレースを繰り広げてきた北朝鮮は、米国の警告に麻痺したのか一歩も引かなかった。2017年9月3日には「賢明でない」6度目の核実験、それも米国が「ただではおかない」と警告していた水爆実験を行った。さらに11月29日には米本土を標的とした大陸間弾道ミサイル「火星15型」を発射し、米朝は一触即発の状況に陥った。
正面衝突を危惧した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権や、ジェフリー・フェルドマン国連事務次長の仲介により、米朝首脳会談に向けた動きが始動した。だがそれでもトランプ大統領は「北朝鮮の核ミサイルはかなり近いうちに米国を脅かす。私は我々を危険にさらした過去の政府の失敗を繰り返さない」として、韓国の平昌で2018年2月9日から開催される五輪後の北朝鮮攻撃を真剣に検討していた。
この年、トランプ大統領は文在寅大統領との電話会談(1月11日)で、北朝鮮が平昌五輪への参加を表明したことから「南北対話が行われている間はいかなる軍事行動も取らない」と約束した。しかし、米紙「ニューヨーク・タイムズ」(2月1日付)は当時、「米国は北朝鮮との戦争を静かに準備している」と報じていた。
実際、コーツ米国家情報長官(当時)は2月13日、米上院情報特別委員会の公聴会で「(核・ミサイル開発を続ける)北朝鮮にどのように対応するのか」と問われると、「決断の時は近づいている」と発言した。
また、外交的解決を目指していたティラーソン国務長官も「北朝鮮に最初の一発が落ちるまで外交努力を続けるため私に与えられたすべての時間を使うが、時間がどれだけ残されているのか正確にはわからない」(2月19日)と述べ、外交努力が失敗した場合の選択肢をマティス国防長官に委ねていることを明かしていた。
極めつけは、トランプ大統領の2月23日の「制裁に効果がなければ第2弾階に移行せざるを得ない」との発言だった。「第2段階」の詳細については明言を避けていたが、「(実行されれば)世界にとって非常に不幸な事態となる」と語っており、軍事攻撃を意味していることは明白だった。
米国が取るべき軍事オプションは、トランプ大統領が2017年9月3日に主宰したホワイトハウスでの緊急国家安全保障会議(NSC)で長時間にわたって討議されていた。
マティス国防長官のほか、ペンス副大統領、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長、ジョン・ケリー大統領補佐官らが出席したNSCで、トランプ大統領はさまざまな軍事オプションについて詳細な報告を受けていた。
米国が検討していた軍事オプションは、北朝鮮の挑発のレベルに応じて@北朝鮮の指導部を除去する斬首作戦A核心軍事施設への精密打撃B北爆など全面戦争の三つに分けられていた。
その後、マティス国防長官から「ソウルに重大な脅威を与えない」軍事オプションも提示された。
「ソウルを重大な脅威に陥れない」軍事オプションとは、韓国の首都ソウルの安全を100%担保する軍事手段を指すのではなく、多少の被害が出たとしても深刻なものとはならない軍事手段を意味していた。換言すれば、「想定された被害よりも少ない被害で済む」オプションのことであった。
具体的には第一段階は、戦略兵器を投入し北朝鮮の空と海で常時展開させることで、北朝鮮をギブアップさせることを狙う。しかし第一段階で結果が出なければ、第二段階では電磁パルス(EMP)弾の使用による攻撃が想定されていた。
「電磁波攻撃」は人命被害を出さずに北朝鮮の通信と防空システムを無力化できる。EMP弾を休戦ライン北側の上空で炸裂させ、平壌の作戦司令部とミサイルおよび砲兵部隊との指揮系統を断つ。そして「F22」「F35B」、さらには「B1B」などのステルス機で北朝鮮のミサイル施設や軍事境界線北側に配備されている多連装ロケットなど長距離砲を無力化させるオプションである。もちろん、北朝鮮の徹底抗戦を想定し、首脳部除去作戦も同時に遂行されることになっていた。
結局、米朝が2018年6月にシンガポールで史上初の首脳会談を行い、米国と北朝鮮の新たな関係を築くことを条件に北朝鮮が完全な非核化に向け、努力することを約束したことで「北朝鮮攻撃プラン」は実行に移されることはなかった。
トランプ大統領は金正恩(キム・ジョンウン)総書記との首脳会談後の2018年6月21日、ホワイトハウスで開かれた閣僚会議で「もし戦争が起きていたならば、数百万人の死者が出るような超大型の惨事につながっていた可能性があった」と述懐していた。