2026年5月12日(火)
「トランプ訪中」での米朝首脳会談の可能性は?
2019年6月30日板門店で電撃的に再会したトランプ大統領と金正恩総書記(青瓦台写真記者団)
日本のメディアの中には、13日に訪中するトランプ大統領が、北京滞在中、もしくは訪中後の15日に金正恩(キム・ジョンウン)総書記と首脳会談するのではないかとの観測が流れている。昨日、この話題を取り上げたテレビ番組もあった。こうした観測、あるいは憶測が流れる理由は、理解できないわけではない。
第一に、トランプ大統領自身が金総書記との会談を切望していることである。
トランプ大統領は昨年10月、慶州で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するため訪韓した際、「金総書記に会えるのであれば、30日の帰国予定を1日延ばしてもよい」と述べるほど、金総書記との再会を待望していた。しかし、北朝鮮側から色よい返答はなかった。
北朝鮮から非公式に「今回は日程の都合で会えない」との連絡があり断念したのか、それとも単に時間切れとなったのかは定かではない。しかし、トランプ大統領は「私は金正恩をよく知っている。我々は良好な関係にあった。ただ、日程を合わせることができなかった」と述べ、米朝首脳会談が実現しなかったことを惜しんでいた。
それでもトランプ大統領は李在明(イ・ジェミョン)大統領との首脳会談の席で「今回は金(国務)委員長と日程を調整できなかったが、今後も北朝鮮との対話に向けた努力を続けていく」と語っていた。
第二に、韓国を頭越しにした米朝接近を警戒していた尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権とは異なり、李在明政権は米朝首脳会談を後押ししていることである。
韓国は北朝鮮との「平和共存」を実現するためにはまず米朝対話が先行しなければならないとの認識を持っており、李大統領自身も就任以来、トランプ大統領に対して金総書記との会談を促してきた経緯がある。
第三に、中国が米朝を仲介する可能性が指摘されていることである。
中国の王毅外相は先月、実に6年6か月ぶりに訪朝した。6年前には接見に応じなかった金総書記だが、今回は王外相を歓待した。
北朝鮮の報道によれば、金総書記は「互いに関心を寄せる地域および国際情勢の問題に対する我が党と共和国政府の立場を披歴した」とされている。これは、米中首脳会談で北朝鮮問題が議題となることを念頭に置いた発言とみられており、中国側に北朝鮮の意向を事前に伝えたのではないかとの分析もある。
最後に、7年前の板門店の会談が電撃的に実現したことだ。
トランプ大統領と金総書記は2019年6月30日、板門店で再会した。この時は、訪日中だったトランプ大統領が、次の訪問地であるソウルへ向かう直前の6月29日午前、「板門店で会いたい」とツイートし、それに金総書記が応じたことで実現した。
金総書記は後に、「正式に板門店で会いたいとの意向を知ったのは、29日午後遅い時間だった」とトランプ大統領に語っていた。
トランプ大統領の訪中スケジュールを見ると、15日の昼食会終了後、「中国を離れる」とされているものの、「帰国する」との表現は用いられていなかった。このため、一部では北朝鮮に立ち寄るのではないかとの見方も出ているようだ。
しかし、筆者は会談実現の可能性は99.9%ないとみている。主な理由を、説明は簡潔にして4点挙げたい。
その1.イラン問題への対応に追われているトランプ大統領に、北朝鮮問題へ割く余裕がないことである。端的に言えば、今のトランプ政権にとって北朝鮮問題は緊急を要する外交課題ではないことだ。
その2.北朝鮮は、米国によるイラン攻撃を「侵略行為であり、最も醜悪な主権侵害」と非難していることである。そのような中でトランプ大統領との首脳会談に応じれば、イランに対する「背信行為」と受け取られかねず、中東における重要なパートナーであるイランとの関係悪化を招く恐れがある。
その3.首脳会談に向けた水面下交渉の兆候や極秘接触が、これまで全く確認されていないことである。むしろ、国連の場では米朝間のバトルが続き、米国は北朝鮮のハッキング行為に対する制裁を科すほど険悪化している。
その4.仮に会談場所が平壌や、東海岸のリゾート地・元山であるならば、米側の先遣隊が事前調査のため現地入りする必要がある。しかし、そのような動きも確認されていない。また、会談場所が北京ならば、北朝鮮が中国の保護下にあるかのような印象を与えかねず、金総書記のプライドがそれを許さないであろう。
結論から言えば、米朝首脳会談が急務だった2018年当時の北朝鮮と、今の北朝鮮とは状況が異なるということである。