2026年5月15日(金)

 韓国の「貨物船爆破」と16年前の「軍艦撃沈」の共通点 李在明政権は白黒つけられる?

ホルムズ海峡で爆破・炎上した韓国の貨物船HMM「ナム号」(出展:HMM)

 ホルムズ海峡で韓国海運最大手、HMM(旧現代商船)の貨物船「ナム号」が5月4日に爆発・火災を起こしてから、ほぼ10日が過ぎた。

 現地に派遣された韓国の調査団は、原因について「外部からの攻撃による」と結論付けた。それでも攻撃手段がミサイルなのか、ドローンなのか、それとも魚雷なのかは特定せず、また、どこの国の仕業なのかも明らかにしていない。「正体不明の飛行体による攻撃を受けた」というのが現在の韓国の公式見解である。

 趙顕(チョ・ヒョン)外相は「飛行体はドローンか」との記者団の質問に対し、「今、特定することは難しい」とした上で、「(飛行体を)発射した主体はいろいろ考えられる。民兵組織の可能性もある」と述べていた。

 イラン製のドローンは、イラン軍や革命防衛隊だけでなく、親イラン武装組織フーシ派や各種民兵組織なども運用していることから趙顕外相は、あくまで「イラン製ドローン」が使用されたという線で事態を収拾しようとしているようにも見える。

 いずれにしても、魏聖洛(ウィ・ソンラク)国家安保室長が「民間船舶に対する攻撃は正当化も容認もできない。強く糾弾する」と述べている以上、仮に攻撃主体がイランと判明すれば、李在明(イ・ジェミョン)政権としてはイランに対して何らかの「制裁措置」を取らざるを得ない。というのも、韓国は過去にも同様の体験をしているからである。

 今から16年前の2010年3月26日、海軍哨戒艦「天安艦」(全長88メートル、1200トン、乗組員104人)が黄海沖で突如沈没し、46人の死者・行方不明者を出した。

 沈没原因については、@暗礁衝突A老朽化による疲労破壊B内部爆発C機雷への接触D魚雷攻撃――など諸説が流れた。「米潜水艦と衝突した」との陰謀論もあった。

 しかし、@爆発規模が大きかったことA事故発生前後に現場を管轄する北朝鮮海軍基地に配属されていた潜水艇2隻が出航し、そのうち1隻の所在が確認されなかったことB天安艦艦長が事故直後、第二艦隊司令部への第一報で「攻撃された」と報告していたこと――などから、北朝鮮犯行説が支配的だった。

 米紙「クリスチャン・サイエンス・モニター」などは「北朝鮮の犯行を裏付ける確実な証拠があっても、李明博(イ・ミョンバク)政権は『北朝鮮の仕業である』と簡単には発表できないかもしれない」報じていたが、事件発生から約2か月後の5月24日、李明博大統領は5月20日に発表された民軍合同調査団の結果を受け、「北朝鮮による魚雷攻撃」と結論付けた。

 沈没海域の海底から回収された魚雷スクリューの破片が、中国製もしくはロシア製であったことが決め手となった。両国には韓国哨戒艦を攻撃する理由がない一方、北朝鮮には、前年(2009年)11月の銃撃戦で大破した警備艇への「報復」という動機があったことや沈没地点が北朝鮮海域に近かったことなどの客観状況から「北朝鮮による魚雷攻撃」と判定された。

 当時、「北朝鮮犯行」が明白になったことで、韓国が取るべき報復手段として李明博政権内では軍事的・経済的オプションが論じられた。

 軍事的対応としては、@海の境界線であるNLL(北方限界線)やDMZ(軍事境界線)で北朝鮮側に領海侵犯や挑発行為があった場合、即座に軍事攻撃を加えるA米軍と協力し、韓国艦隊の脅威となっている北朝鮮の軍事基地を攻撃するB戦時作戦統制権の韓国移譲を延期し、縮小傾向にあった米韓合同軍事演習を一層強化して北朝鮮を軍事的に圧迫する――などが挙げられた。

 また経済面では、@開城工業団地開発をはじめ、あらゆる南北交流を中断するA民間部門を含む人道支援を全面中断するB国連制裁をさらに強化する――ことなどが議論された。

 しかし、朝鮮半島で軍事的緊張が高まれば、韓国は投資対象国から投資回避国へと転落し、持ち直していた経済が急落する恐れがあった。また、開城工業団地を中断、あるいは撤収すれば、1兆5000億ウォン相当の投資が全て無駄になるというリスクもあった。

 その結果、最終的には断固たる措置として@韓国海域を利用する北朝鮮の海上交通を遮断するA南北間の交易・交流を中断する――ことが決定された。但し、開城工業団地については、その特殊性を考慮して対象外とされた。

 李明博政権は国際社会にも北朝鮮の蛮行を訴え、対北懲罰を求めたものの、7月9日に採択された国連安保理議長声明では北朝鮮を名指しせず、「天安艦沈没を招いた攻撃を非難する」との表現にとどまった。さらに、「今回の事件との関連を否定する北朝鮮の反応に留意する」との文言まで盛り込まれた。

 李在明政権が「イランの犯行」と決めつけることに慎重なのもトランプ政権から求められている護衛作戦への参加を含め、イランに対抗措置を取った場合に生じる“ブーメラン効果”を恐れているからにほかならない。

 李在明政権が李明博政権のように白黒をつけられるのか、誰よりもトランプ政権が注視しているであろう。