2026年5月17日(日)
なぜ国交を断絶しない 北朝鮮と英国
駐英北朝鮮大使館(出展:韓国統一部)
英国が発表した対ロシア制裁リストの中に松涛園国際少年団野営所を含めたことについて北朝鮮外務省スポークスマンは15日、「我々の児童・生徒のキャンプ施設を事実無根のウクライナの子ども『強制移住』問題と無理やり結び付けて我が国家の対外的イメージをダウンさせ、朝ロ友好・協力関係を貶そうとしている」と猛反発していた。
「今まで、英国は米国の対朝鮮敵視策動に口を極めて便乗し、我が国家の主権的権利行使にことごとく言い掛かりをつけて反朝鮮戦争演習に始終加担し、二国間関係を系統的に悪化させてきた」と、英国の北朝鮮へのこれまでの対応に不満をぶつけていた。
そのうえで「我が国家が最も大事にする児童・生徒の権利と利益にまで手出しする妄動を働いた以上、我々はロンドンの悪意的な行為に対応する十分な権利を持っている。我が国家に対する英国の重大な敵対行為から招かれる全ての悪結果に対しては英国政府が全責任を負うことになるであろう」と、何らかの対抗措置を取ることを予告した。
北朝鮮は160余カ国と国交を結んでいるが、その中で最悪の関係にあるのが英国である。その理由は国連常任理事国の英国が北朝鮮の核実験、ICBM発射、人工衛星の発射からロシアへの武器輸出、北朝鮮の人権抑圧に至るまで厳しく批判していることにあるようだ。 そうした経緯からして北朝鮮が国交断絶に踏み切ったとしてもおかしくはない。北朝鮮には4年前にマレーシア政府が米国からマネーロンダリングの容疑を掛けられた北朝鮮籍市民の身柄を拘束し、米国に引き渡したことを「許せない罪を犯した」としてマレーシアと国交断絶した「前科」があるからだ。
両国は2000年12月12日に外交関係を樹立し、2001年にロンドンと平壌に駐在大使館を開設したが、核実験やミサイル発射などによる国連安保理の制裁で北朝鮮は英国から高級品や贅沢品などは輸入できなくなった。鉱物資源などの輸出も規制されている。油田開発のため2004年に北朝鮮に進出したアミネックス精油会社も、北朝鮮との間でマグネサイトを共同開発していたオリンド(Orind)社も撤収して久しい。EU独自の制裁である送金禁止などもあって両国の貿易は凍結状態に置かれている。
北朝鮮が外国との貿易や投資を広げる目的で開催している春と秋に年2回開いている「平壌国際商品展覧会」に時にドイツやイタリアなどからバイヤー来ても英国からの参訪問者はいない。北朝鮮にとって英国との経済的メリットはゼロである。
外交では金正恩(キム・ジョンウン)総書記が2021年と2022年に連続してエリザベス英女王の誕生日に祝電を送ったこともあったが、昨年(2025年)両国は国交25周年を迎えても祝電交換を含め、大使館での宴会など祝賀行事は一切なかった。 完全に疎遠、不仲の関係にある。
北朝鮮がそれでも英国との関係を維持したのは英国の英語教育支援である。英国大使館は平壌内の6つの大学と1つの中学校における英語教師教育事業を支援してきた。北朝鮮の大学院生が英国からの奨学金でケンブリッジ大学に留学することもできた。北朝鮮の経済テクノクラートらも10人単位で英国を訪れ、市場経済を学ぶこともできた。しかし、それも「コロナ」で国境を封鎖したことで途絶えている。
何よりも2016年8月には太永浩(テ・ヨンホ)駐英公使が亡命騒動を起こし、北朝鮮の対外イメージを失墜させただけでなく、英国の脱北者の受け入れも急増し、すでにその数は1千人を超えているとされている。北朝鮮にとって英国との関係は失うものはあっても得るものはないはずだ。
英国もまた、「国際ルールを無視している」と何度も批判している北朝鮮と関係を断絶を維持しているのもなんとも不可解だ。
英国が北朝鮮と国交を結び、平壌に大使館を開設した理由、北朝鮮との関係改善に取り組んでいた当時の韓国の金大中(キム・デジュン)大統領の対北政策を側面支援することにあった。 初代の平壌駐在の英大使マイク・ギフォード氏が2013年に米国のロサンゼルスタイムズへの寄稿文(10月21日付)で明かしたように北朝鮮を中国のように開放させること、北朝鮮が国際社会の一員となれるよう努めることだった。また、平壌に大使館を置く理由は「北朝鮮が国際社会と積極的に関係を築き、問題を起こさないよう支援するため」と述べていた。
実際にギフォード初代大使は北朝鮮が2013年2月に3回目の核実験を強行した際、「戦争が起きた場合は安全を保障できないので撤収せよ」と求められても平壌に留まった。その理由について「北朝鮮には外交官の身辺を保護する義務と責任があることを強く認識させるため」と語っていた。
そのためか北朝鮮が5度目の核実験を行った2016年には米国務省のダニエル・ラッセル東アジア太平洋担当次官補(当時)が、6回目の核実験を行った2017年には日本の河野太郎外相(当時)が各国に対して北朝鮮との外交断絶を呼びかけても英国は応じることはなかった。
今も、この政策に変化はないが、大使館が果たす役割は北朝鮮国内の情報収集が主のようだ。国交のない米国のCIAに替わって英国の情報機関「MI6」がその役割を担っているからなのかもしれない。
英国は駐朝大使館をスウェーデンやドイツと共に平壌駐在のEU共同大使館内に設置されている。