2026年5月28日(木)
「日本は軍国主義化している」と非難する金正恩政権は李在明政権の代弁者か
高市早苗首相と金正恩総書記(労働新聞と首相官邸HPから筆者キャプチャー)
「反日」と称されてきた韓国の李在明(イ・ジェミョン)政権は、過去の歴史問題や反撃能力の保有に乗り出した日本の防衛力強化について、以前のように騒ぎ立てなくなった。一方、北朝鮮は対照的に対日批判を続けている。
韓国政府は、「ハンギョレ新聞」や「京郷新聞」など一部政府寄りのメディアが警鐘を鳴らしている日本の防衛力強化や改憲議論をいたずらに問題視するよりも、日本が平和憲法の精神を堅持し、韓国とともに地域の平和と安定に寄与する方向へ導くほうが得策だとの立場を維持している。しかし、こうした李政権の対応に対し、一部の進歩系・左派団体の間では不満がくすぶっている。
最近では、旧日本軍慰安婦被害者を支援してきた市民団体「正義記憶連帯(正義連)」が、李大統領を痛烈に批判していた。
同団体は、李大統領が先の安東での日韓首脳会談で元慰安婦問題を取り上げなかっただけでなく、「日本が防衛費の増額や長射程ミサイルによる打撃能力の確保、武器輸出の拡大など、軍事大国化への道を歩んでいる」(ハン・ギョンヒ正義連理事長)ことに対しても憂慮を全く示さなかったことを嘆いていた。
李政権は、日本との関係を「史上最高の良好な関係」(韓国大統領室報道官)と位置付けているため、正面からモノが言えないようだ。見方を変えれば、その役割を北朝鮮が代弁しているかのようにも映る。
労働党機関紙「労働新聞」は、5月23日付の記事「軍国化を追求する日本に未来はない」で、日本政府の憲法改正の動きや防衛費増額、「安保3文書」の改定などに言及し、強く反発した。
中国やロシアも、国連など外交の場で、日本が抑止力強化を進めていることを「軍国主義の復活」と批判している。しかし、北朝鮮のように「再武装化の道を猛烈に突き進む日本が再侵略を企てるなら、それは過去以上に深刻な自滅的結果を招く」といった踏み込んだ表現で日本を非難しているわけではない。
世界の軍事力ランキングでは、ロシアは米国に次ぐ2位、中国は3位とされ、日本は6位前後に位置付けられている。しかも、ロシアと中国はいずれも核保有国である。そのため、両国にとって日本の「軍事力」は、北朝鮮ほど深刻な脅威とは映っていないのかもしれない。
しかし北朝鮮にとっては、朝鮮半島有事の際、日本の防衛力が米韓連合軍と連携し、日米韓が一体となって対抗してくれば、大きな脅威となる。このため、日本の安全保障政策の動きに必要以上に過敏に反応しているようだ。
今年に入ってからの北朝鮮による対日非難の件数を数えると、すでに20回前後に上る。例えば、2月には熊本県への長射程ミサイル「12式地対艦誘導弾能力向上型」の配備開始、3月には静岡県への「島しょ防衛用」地対地ミサイル配備、4月には航空自衛隊所属「宇宙作戦群」の「宇宙作戦団」への格上げなど、その都度、日本に批判の矛先を向けている。
今月3日にも労働新聞は、日本が武器輸出三原則を緩和したことについて、「表向きだけでも掲げてきた『平和国家』という見せかけを脱ぎ捨て、戦争国家の醜い正体を露骨にさらけ出している」と非難していた。
同紙は5月9日にも「歴史の教訓を忘れるべきではない」と題する記事を掲載し、「新軍国主義が日本を導く道の終着点がどこであるかは、侵略と戦争、反人倫的犯罪行為にまみれた過去の歴史が明確な答えを与えている」と日本批判を展開した。
一連の非難の中で、北朝鮮は「軍国主義の終着点は『強い日本』ではなく『滅びる日本』だ」という表現をしばしば用いる。これは、核を放棄しようとしない北朝鮮に対し、日本や韓国が投げかけてきた「核保有に未来はない」という論理の裏返しとも言える。
「拉致の安倍」と呼ばれるほど拉致問題に熱心だった安倍晋三元首相は、2017年9月の国連総会で、北朝鮮に対し、拉致・核・ミサイル問題を解決してこそ「北朝鮮には明るい未来がある」と述べていた。裏を返せば、核を放棄しない限り未来はない、という意味でもある。しかし、それから10年近くが経過しても、北朝鮮は核を手放そうとはしない。
北朝鮮外務省の報道官は今朝(28日)、米国、日本、オーストラリア、インドによる4カ国協力枠組み「クアッド」が北朝鮮の非核化を強調したことに対し、「改めて明白にするが、我々の非核化は決して、永遠にない」と反発した。これは「北朝鮮は非核化しなければ未来がない」とみる国際社会の認識とは正反対の主張である。
似ているようで似ておらず、似ていないようで似てもいる日朝の応酬は、今のところ「口喧嘩」の段階にとどまっている。それだけに、」朝鮮半島有事が現実のものとならないよう、2002年9月の日朝平壌宣言で「双方は安全保障にかかわる問題について協議を行っていくこととした」と確認した原点に立ち返り、日朝両国は一度くらいは安全保障上の懸念について率直に話し合う必要があるのではないだろうか。