2026年5月29日(金)

 ホルムズ海峡で韓国貨物船を爆破したイランへの対応で苦悩する李在明政権

ホルムズ海峡で爆破、炎上した韓国の貨物船HMM「ナム号」(出展:HMM)

 米国とイランは60日間の停戦延長で合意寸前にあるが、韓国はイランへの対応で頭を抱えているようだ。

 ホルムズ海峡で5月4日に発生した韓国海運最大手、HMM(旧現代商船)の貨物船「ナム号」の爆発・火災について韓国の合同調査団が5月27日、「イランによる可能性が高い」と発表せざるを得なかったからだ。

 外交部の朴潤柱(パク・ユンジュ)第1次官は国防科学研究所などの専門家がアラブ首長国連邦(UAE)で「ナム号」の残骸や船体損傷部位の調査と国内に持ち帰った残骸回収物の分析結果に基づき、5月27日に行ったブリーフィングで「ナム号」を攻撃したのはドローンではなく、2発のミサイル、それもイランで開発された「ヌール(Noor)」系列の対艦ミサイルである可能性が高いことを明らかにした。

 これにより、貨物船の爆破、火災はエンジン故障などの事故ではなく、またミサイルを発射した主体が米国でもないことが判明したが、「犯人はイラン」の決め手となったのはエンジンの部品だった。

 外交部が公開したミサイル部品の残骸には製造会社「TEM」の刻印があるものがあった。「TEM」はイラン国営企業であるイラン航空産業傘下企業「タービン・エンジニアリング・マニュファクチャリング」を意味する。同社はヌールミサイルに使用される「トルー4」エンジンのほか、無人機などに使われるターボファン・ターボジェットエンジンを開発・製造していることで知られている。

 合同調査団の一員として記者会見に同席したリュ・ユンサン国防部国際次長によると、2発発射したということは、「警告や誤認ではなく、明らかに被害を与える意図を持って撃った」との見立てを述べていた。

 断定は避けていたものの政府が「イラン関与」を示唆した以上、イランに対して単に謝罪と補償を求めるだけでなく、何らかの制裁を加える必要も出てくる。

 外交部は早速、サイード・クゼチ駐韓イラン大使を外交部庁舎に呼び、調査結果を説明し、責任ある措置を求めていたが、やっかいなことに大使は「今回の事件に絶対に関与していない」と全面否定していた。謝罪するどころか、米軍によるイラン・ミナーブ地域の小学校爆撃事例にも言及し、「米国の欺瞞的な作戦によってこのようなことが起こる可能性を排除できないのではないかと思う」と述べ、「ナム号」攻撃の背後に米国がいる可能性を示唆していた。

 イラン政府が「ナム号」被弾の事実関係自体を引き続き否定する場合、政府としての対応は容易ではない。イランが公式に認めていない段階で対応を誤れば、ホルムズ海峡内側に足止めされている韓国船舶25隻の安全に悪影響を及ぼしかねない。イランとの外交関係にひびが入れば、UAEやクウェートなど中東産油国のホルムズ海峡からの原油輸入も担保できなくなる。

 韓国はイラン戦争勃発後、事実上唯一イランに特使を派遣した国でもあり、戦争期間中もテヘラン駐在大使館を撤収しなかった数少ない国の一つである。そうしたこれまでの外交努力が全て無に帰することになる。

 振り返れば、韓国には苦々しい経験がある。

 今から16年前の2010年3月26日、海軍哨戒艦「天安艦」が沈没した際には民軍合同調査団の調査結果に基づき、当時、李明博(イ・ミョンパク)大統領は「北朝鮮による魚雷攻撃」と結論付け、縮小傾向にあった米韓合同軍事演習を一層強化して北朝鮮を圧迫したほか、開城工業団地を含む南北経済交流の中断、人道支援の全面中断、国連制裁の強化という「懲罰」を行った。 その結果、金大中(キム・デジュン)政権―盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権と続いていた南北首脳会談は途切れ、南北関係は凍結してしまった。

 イランへの対応に苦慮する李政権に対して全国地方自治体選挙期間中ということもあって苦戦を強いられている最大野党の「国民の力」は「イランの反応を過度に意識して顔色をうかがうような対応にとどまってはならない」と、政府を厳しく攻め立っている。

 野党の一部議員にいたっては李在明大統領が昨年10月、韓国国民を対象にボイスフィッシングなど各種詐欺犯罪を行っていたカンボジア組織に対し「韓国人に手を出せば破滅することを確実に見せなければならない」と啖呵を切ったことを引き合いに出し、「破滅させるどころか、謝罪すら受けていないではないか」と、辛辣に批判している。

 韓国は果たしてイランの反発を買うような措置を取れるのだろうか。今まさに、李大統領の「政治判断」が問われている。

(参考資料:ホルムズ海峡の韓国貨物船爆破はイランか、米国か、それとも?憶測広がる韓国世論)