ミサイルか、人工衛星か
――北朝鮮元ミサイル将校に聞く
(コリアレポ−ト 1999年8月号)
北朝鮮の再度のミサイル発射問題をめぐって関係当事国である日米韓はその阻止に向けて外交努力を継続している。
「ミサイル及び人工衛星の打ち上げは主権の問題である」と反発す北朝鮮は米国との話し合いの余地を残しながらも、着々と発射準備を進めている。
テポドン・ミサイルと人工衛星を同一のものとみなす日米韓3国は人工衛星であっても発射は容認しないとの立場だが、北朝鮮はミサイルについては取引に応じるが、「人工衛星」は別問題との立場だ。
昨年(1998年)8月に打ち上げられたロケット物体についてはミサイルか、人工衛星かで議論が二分されているが、本誌編集長(辺真一)はソウルに飛び、1997年5月に亡命した安善国元ミサイル将校と単独インタビューを行った。
安善国(49才)の略歴は以下のとおり、
17才で入隊。2年間の兵役生活後に砲兵大学に入学。ミサイルの生産、修理に関して学ぶ。卒業後、最高司令官直属の砲兵司令部、ロケット部隊に将校として配属された。1982年に負傷し、除隊。その後は防衛産業工場で党秘書を担い、第2経済委員会で外貨獲得事業を担当。97年に家族と共に船で韓国に亡命するまでは国家科学院平安北道資材供給所外貨獲得指導員だった。
――人民軍砲兵指導局修理担当将校をしていたとのことだが、主に何をするところか?
そこでは、拳銃から地対地のミサイルまで武器やその弾薬を技術管理する。また、それらを生産する工場に行って、引き取って、秘密倉庫に保管、技術管理したりする。また、発射部隊に行って、兵士らに武器の管理、利用に関する教育を行ったりする。兵士を相手に教育するのではなく、兵士を教育する上官、将校らを相手に教える。それから、武器を使用する過程で技術的な問題が生じた場合、出掛けて検査し、修理の対策を指示したりする。
――現職にいた頃、北朝鮮が扱っていたミサイルはどのような型か?
どのように説明すればわかってもらえるやら。射程距離からするとイラン・イラク戦争の時に使われていたようなスカッド・ミサイルはすでに北朝鮮に広く普及されていた。
――それは、80年代に入ってからか?
その前から所有していた。74年にはスカッド・ミサイル程度は600から700基ぐらいはあった。それから79年にはもっと発展した。ミサイルは地方の軍にすべて引き渡した。国民が戦争を行う時に編成される民防衛隊、韓国では民防衛隊と言っているようだが、北朝鮮では地方軍橋導隊と呼んでいて、スカッドミサイルで再武装した。67年にはノドン1号程度の地対地ミサイルを12基持っていた。
――輸入したものか?
その通りだ。
――北朝鮮はいつ頃からミサイルを自主開発したのか?
自主開発は1976年頃には完成していた。年に40基ほどつくった。スプリングなど金属工学が発展しなかったため発射台は中々作れなかったが、80年代初め頃には発射台も建設できた。
――76年度に自主開発に成功したというのはスカッド・ミサイルの何型か?
北朝鮮ではスカッドAとか、Bとか、Cとは呼ばない。スカッドAと言われても向こうでは判らない。
――では、北朝鮮ではミサイルの型のことをどう呼んでいるのか?
全部、ミリ数によって呼ぶ。砲弾の直径の大きさ、長さ、弾頭に装着する信管の種類によって名前が付けられる。また、破片弾とか、地雷弾とか、工作弾という具合に。一言でいえば、「××砲」と呼んでいた。
――北朝鮮が93年5月に日本の能登半島に向けて試射したミサイルを日本を含む外国では、「ノドン1号」と呼んでいるが?
そうではなくて、武器自体はノドン1号と名前を付ける場合、ノドン1号の性能を持っている武器は、67年頃から持っていた。ノドン1号程度でもって、ソウルの米軍司令部や青瓦台、合同参謀本部、それからオネスト・ミサイル基地に対してすべての射撃場から命中させることのできる射撃支援を行うなど、常に準備してきた。もちろん、日本もターゲットにしてきた。
――67年からか?
その通り。67年7月に1基輸入し、68年初めからはその準備作業をしてきた。私が将校になったのは74年。それまでは何も知らされてなかったのだが、将校になってから薄々わかるようになった。74年の時点で射撃支援を整えていた。海外からミサイルを輸入せずに今では自らの能力で、自らの技術で、自らの資材で、自分らの努力でいくらでも作り、使えるようになった。民族の自尊心をかけて、我々人民が作った。
――砲兵大学について話してもらえないか?
日本に北朝鮮の軍事情報を流すつもりはない。私は韓国に亡命した者だが、スパイにはなりたくない。私は実務執行者であったので、地図を見れば、どこにミサイルの基地があると、的確に言える。だから、日本に向けられているという前提に立って対北政策を取れば良いではないか。(日本の)内閣調査室が情報を取るためどれだけ金を使っているのか知らないが、私は内閣調査室の者でもないのに、何のために(秘密を)言わなければならないのか。
――北朝鮮が昨年8月31日に発射したテポドン1号をどう思うか?
テポドンなんて問題ではない。火薬、即ち、推進装着薬さえ開発すれば、テポドンよりももっと大きいものも開発できる。難しい問題ではない。液体燃料を自主生産し、あるいは固体燃料でも能力が優れている燃料ならば、日本、米国よりもさらに遠くに飛ばすこともできる。
――北朝鮮は昨年試射したミサイルを「人工衛星」だと主張しているが、どう思うか?
北朝鮮の主張は正しいと思う。なぜかと言うと、日本や米国をターゲットにした距離を飛ばす燃料を開発したからだ。問題は、北朝鮮の地対地ミサイルの合否が問題だ。誤差がどの程度かで、合否が決まる。「ノドン1号」の場合、目標物と着弾点との誤差は半径で500m,直径で1km程度だ。その間に落ちれば、合格品だ。弾頭自体の威力から半径500m以内に着弾すれば、直径2km以内のすべての生物を消滅させることができる。従って、それを目標物に正確に飛ばすためには衛星体系を通じて空から調整しなければならない。ところが、北朝鮮は電子工学が発展していない。でも、電子工学が発展すれば、衛星も可能だ。おそらく、昨年8月の試射の第1の目的は軍事衛星の実験だったと思う。
――人工衛星は、平和的、商業的な目的にも利用できるし、軍事目的にも使われる。北朝鮮の場合は、軍事用ということか?
北朝鮮の現在の状況からみて、文化用、情報通信用として打ち上げるというのは話にならない。何よりも衛星を打ち上げても、産業の現場にそれを導入する基礎準備がなってない。それに情報通信用として使うにしても、衛星打ち上げのため費やした費用を回収できるような状況にはない。ホワイトハウスや皇居などに照準を定め、正確に命中させることを目的とした軍事衛星に利用するためロケット操縦衛星を打ち上げようとしたのでないか。
――弾頭の弾薬によって爆発の規模が異なるが、何kgぐらい搭載できるのか?
何kgとは推定できない。やり方によって異なる。ミサイルで重要なのは推進部分だ。核を搭載すれば、核弾頭となるし、化学物資を入れれば、化学爆弾になるのであって、それは重要なことではない。
――北朝鮮のノドン、テポドンはソ連製を改良してつくったのは間違いないか?
技術を導入したのであって、コピーそのものではない。ソ連の技術を導入し、ソ連のものを輸入し、それを一つ一つ分解し、それをマイクロメーターで計って、その中に入っている科学製品を全部取り出して、分析し、科学方程式で割り出して、科学物資を作ったのだ。
――完全に自主開発と思っているのか?
自主開発だ。我が国の科学者の研究成果によって開発したものもあるし、発展している国のものを持ってきてそれを分析して開発したものもある。科学技術者の研究方法というのはいろいろあるではないか。
――ソ連から技術者を呼んで、開発しているというのは事実か?
それは当然のことだ。私自身もソ連人から指導を受けた。67年当時は7人のソ連人問が来ていた。発射台の乗務員が着るユニホームから歯ブラシ、歯磨き、タオルにいたるまで使用するものは全部ソ連製だった。ソ連人の顧問から教育を受けるので当然のことだ。
――ソ連が韓国と国交を樹立してからはどうか?ロシアとの関係が悪化してからもソの技術者の協力は続いていたのか?
その後も入ってきている。昔のように政府レベルではなく、民間次元として。ロシアも法治国家といっても複雑な国なので、そういうことができた。ロシアの技術者は全員私服で来る。肩に星を付けた恰好で来る者はいない。
――日本の技術はどうやって手に入れるのか?
技術品、電子製品や先端ロポットなどを導入する。特にコンピューターは随分と入ってきていた。日本から直接輸入する。中には第3国を経由してもってくる場合もある。
――日本には輸出禁止品目などがあって、持ち込めないものもある。そういうものはどうやって調達するのか?
日本も法がすべてではない。金で政治をしている国だ。日本人だって金儲けになるので我々に売ってくれている。(資本主義社会は)法よりも金ではないのか?
――日本人はそれが軍事に使われることを知っていて、売っているのか?
知らないケースがほとんどだ。民生用として買うが、軍需用のものも買っている。
――貴方自身が日本から直接調達したことは?
調達したことはない。ただ部署で日本製の付属品を見ていたからわかる。
――日本のメーカーのもので記憶しているものはあるか?
いちいち覚えてはいない。日本のものかという程度だ。
――それが、日本製だということがどうやってわかるのか?
日本語が交じっているからみればわかる。どの国の商品にも文字は書かれているものだ。
――北朝鮮製のミサイルには日本製品は使われているのか?
電子製品はほとんどが日本のものだ。センサーなども。
――中国のものはどうか?
今は中国のものが随分と入っている。
――いつ頃から中国のものが増えたのか?
90年代に入ってからだ。それまでは中国のものはたいしたことはなかった。特に中国は電子産業が遅れていた。中国は最近になって改革・開放したので、資本主義の技術が入り出した。
――中国からの技術協力はあったのか?
自分の目で直接確かめてないので何とも言えない。しかし、私はこう考えている。北朝鮮だからといって技術であれ、部品であれ売らない国はないということだ。米国だって、値段さえ折り合えば、北朝鮮に売りつけることもあると。だから中国が北朝鮮に売らないことはない。だいたい米国もおかしい。自分が持っていて、相手に持つなと言える立場にはない。本当に人類の平和を願うならば、北朝鮮だけでなく、米国もロシアも中国もインドもパキスタンもすべて廃棄しなければならない。
――国際社会が問題にしているのは、一方では周辺国に食糧援助を求めながら他方ではミサイル開発をし脅威を与えていることだ。それで、北朝鮮は何を考えているのかわからないとの声が上がっている。この点についてはどう考えているのか?
北朝鮮内部では国民が餓死するのは二次的で、国があっての国民と考えている。これをどのように考えるかというと、日本の植民地統治に遡る。当時、李氏朝鮮は軍事力が弱かったので、侵略されたと。従って、再び外国から侵略されないようにするためには軍事力を育てなければならないと考えている。国を奪われれば、死んだ犬よりも惨めだ。だから、腹が減って餓死しても、力を持たなければならないとの論理だ。国民の気持にそうした気持ちがあるので、我慢してあげている。しかし、死んでまで我慢するのは難しいので、人々の意識にも変化が出始めた。金正日(総書記)が国民を救い、そういうことができれば、いいのだが、そういう状況ではないからそうやるほかないと。北朝鮮の中でも不平不満を言う者が段々増えているが、我慢している部分も多い。だから、韓国のようにデモも起きないし、暴動も起きない。それで(国民は)そのまま餓死しても、「金正日が我々に食糧をくれないから餓死する」とか、「悪い奴だ」とか、一言も言わず、黙って死んでいっている。
――日本では近々テポドンが再び発射されるのではないかと戦々恐々になっている。どう思うか?
私は金正日ではないので、彼が何を考えているのかわからない。しかし、武器というものは、継続して発展させ、開発しなければならない。他の国より圧倒的に優勢であってこそ、力の政策を行うことができる。自分の力が弱くては何も言えないし、できない。特に北朝鮮は苦しい状況下にある。資本主義経済市場にもまだ入れず、社会主義経済市場もない。政治、経済的危機に直面しているのは市場がないからだ。だから、信じるものは力の政策しかない。立つ瀬がないので、武器を保有して、それを拠り所にしようとしている。日本がいくら撃つなと騒いでも、米国が何と言っても、北朝鮮からすれば、やはりやらざるを得ない。
――ノドンが日本に、テポドンが米国に向いているとみて間違いないか?
そうみるべきだろう。
――ノドンはすでに配備されたとの報道もあるが、どうか?
テポドンやノドンを打ち上げる発射台、試験発射台はあるが、固定発射台のようなものはない。そのようなものは作っていない。私も見たこともない。第一、日本に向けて固定発射台を作るはずがない。北朝鮮は自分の作戦戦術がばれるようなことは絶対にしない。今は、目標物に正確に当てるための研究をしている。その実験のためには固定発射台は1基、2基あれば十分だ。北朝鮮の発射台は組み立て方式だ。全部分解してある。ロケットの保管方法がそうだ。ミサイルは全部、地下に貯蔵してある。発射台の部品を全部解体しておく。発射直前に組み立て、発射地まで運搬して打ち上げるのだ。
――北朝鮮のミサイル開発については、日米から食糧、経済援助を引き出すための外交カード説、中東に輸出するための外貨獲得説、朝鮮半島有事の際の日米参戦抑止力説などがあるが、どの説が正しいと思うか?
いずれの説も認める。しかし、何度も言うが、北朝鮮はそうするほかないのだ。自分一人では生きていけないのに、また日米韓3国が連合して襲いかかってくるのにどうしろというのか。1か国が相手でも大変なのに3か国を相手に戦わなければならない。1対1でも大変なのにだ。だから勝つためには、一つ、一つ撃破して、1対1に持ち込まなければならない。ただし、外交カードについて言うならば、北朝鮮に最初から狙いがあったわけではない。
――米偵察衛星が発射台をとらえたので、テポドン2号の発射が近いと報道されているが、どう思うか?
米国の衛星が撮影したものは、99%偽物だ。ロケット基地を偽造するため山の奥に偽の発射台を何箇所かつくってある。衛星に写ったものはだいたいそのようなものだ。衛星が地下の中、それも200mも奥に入って、撮ったという話は聞いたこともない。
――組み立てに要する時間は?
3日〜4日。どんなに遅くても1週間あれば、十分だ。早ければ、部品を運んで、組み立てれば、5〜6時間でできてしまう。固体燃料の場合は、すべて装着した状態で運ばれるし、液体燃料の場合は、6時間もあれば、注入は終わる。
――日本も米国も韓国もミサイルを発射させないよう外交努力をしているが、どうすれば発射を防げるのか?
(北朝鮮に対して)与えるものは与えて、そのうえで言うべきことは言い、制裁を加えればよい。原則的に考えて、日本は借りた分は返さなければならない。過去を補償しないのは問題だ。それは日本が借りた分だ。これが、政府の、国民の対日感情の根底にある。
――先に過去を清算せよということか?
その通りだ。日本は今の人達が過ちを犯したのではない。当時の人達の過ちだ。その借りを返すこと、被害を受けた人々に補償すべきだ。従軍慰安婦の人達に対しても。人道的な次元から補償すべきだ。相手と対話をして、親しくなるには心が通わなければならない。日本も北朝鮮を侵略する意思がないことを示せば北朝鮮も日本の脅威を感じることはないだろう。そうなれば、ミサイル開発を止めるだろう。それでも言うことを聞かず、開発を続けるならば、その時は厳しく対応すべきだ。
――外交制裁や経済制裁でミサイル開発の阻止は可能か?
北朝鮮は周りが騒いでいるからといって、やめるような国ではない。開発を続けるだろう。私は、解決方法を知っている。しかし、このような公開インタビュ−の場では話せない。私には私なりの考えがある。まあ、いずれにしても、利己主義的な立場から問題を解決せずに本当に米国と日本が朝鮮半島の統一を望んでいる立場なら、そうした立場、視点に立って政治家同士が話し合えば、道は開けると思う。韓国も米国も日本も自己中心的な見方をしているので、北朝鮮との共通点を見いだせないでいる。同じ視覚を持てば解決できる問題と思う。
――米国はミサイル問題では「再発射すれば重大な結果を招く」と警告している。それでも北朝鮮は発射すると思うか?
100%発射すると思う。米国が脅せば、脅すほど、発射する可能性は高い。米国が説得し、北朝鮮を理解させる方向にもっていけば、態度を変えて、経済援助を交換条件に合意する可能性もある。だが、威嚇したりすれば無条件発射すると思う。
――北朝鮮がミサイルを再発射すれば、米国は軍事的対応も検討するかもしれない。そうなば、戦争に突き進むことにならないか?
北朝鮮が発射すれば、米国は迎撃するか、北朝鮮のミサイル基地を攻撃することも考えられる。そうなれば、戦争になる。戦争になれば、北朝鮮は滅びるだろう。しかし、米国も今回のイラクと違って、それなりの被害を免れることはできない。イラクやユーゴとの戦争では米本土は被害を受けなかったが、今度は受けることになるだろう。
――それはどういう意味か?米本土を攻撃できる大陸弾道弾ミサイル(ICBM)や核を持っていなければ、米本土を脅かすことはできないではないか?
詳しいことは言えない。私が断言できるのは、米国は間違いなく、直接的に被害を被るということだ。だから、北朝鮮も簡単には譲歩しないと思う。
――米国はそのことに気づいていると思うか?
米国が(北朝鮮の攻撃力を)知っているのか、知らないのか、私にはわからない。しかし、私は何も知らないで言っているのではない。私は米本土が被害を受けるということだけは確信をもって言える。
――北朝鮮は戦争を覚悟してまでもミサイルを開発するのか?
逆に一つ質問をしよう。北朝鮮が「テポドン1号」を発射したが、それで日本がどのような被害を受けたのか?日本に向けて撃ったが、日本の上には落ちなかったではないか。例えばの話だが、今日「テポドン2号」を発射したと想定しよう。それが、米国や日本列島に落ちれば話は別だが、米国や日本に具体的にどのような被害を与えたというのか?自分らに危険だから、全部悪いと言ってはならない。米国も、ロシアも、中国も止めるので北朝鮮も止めろというなら、話は分かるが、自分らは持っていて、止めろというのでは筋が通らないではないか。
――しかし、現実の国際政治に立脚すれば、北朝鮮がこれ以上突っ張れば、戦争にまで発展しまう恐れがあるではないか?
日本はかつて植民地にしたこともあって朝鮮人の性格などについてはよく知っていると思う。しかし、米国は北朝鮮という国をいまだよく知らないと思う。北朝鮮は現在の経済的、政治的な危機状態からみてミサイルを開発せざるを得ない国家だ。また、北朝鮮は脅されたからといって、打ち上げを止めたり、開発を放棄する国ではない。自尊心が誰よりも強いのが北朝鮮だということを忘れてはならない。米国は再発射すれば、軍事制裁を加えると脅しているが、北朝鮮はどっちみち死ぬことになるのならば「徹底的にやろう、無条件戦おう」という方向に向かう。止めるべきだと思っても、威嚇されれば、もっと強く出てくる国だ。だから、論理的に解決していくための方法を模索すべきだ。論理的に理解させる努力をしたうえで、それでも言うことを聞かなければ、その時は見せしめとして攻撃しても良いと思う。
――軍人生活が長かったようだが北朝鮮の軍人の対日観はどうか?
日本は不倶戴天の敵とみている。戦闘武器、艦船、砲弾運搬車などには「朝鮮人民の仇米日侵略者らを打倒しよう」「南朝鮮傀儡政権を打倒しよう」とのステッカーが貼ってある。
――北朝鮮の今の軍事力で日本を攻撃できるかと思うか?
攻撃して、占領できるかどうかは別問題だ。攻撃というのは、一発撃っても攻撃だ。それはできる。攻撃力がないわけではない。1967年にはすでに「ノドン1号」程度のミサイルを保有したし、最低の核装備をすれば、100kgは装着して使えると思う。原爆の被害がどれだけかは被爆国の日本は知らない筈はない。攻撃能力があるかどうかは別にして、攻撃は簡単だ。だから、力で解決しようとしてはならない。感情に訴えたほうが効き目はある。
――北朝鮮は「西海艦船銃撃戦」でなぜ報復しなかったのか?
復讐をできなかったと思う。コメがないからできないのだ。食べ物がないので、できないのだ。金正日は父親の3回忌が終わるまで外交使節団に会わなかった。経済、外交に手を出さなかった。喪中期間にやっていたことといえば、一つは軍隊で、もう一つは観光地つくりだった。3回忌が終われば、国家主席に就任しなければならなかった。主席になった場合、行政権を持つ。施政演説もしなければならない。民に食糧を保障し、経済を建て直すよう政策を発表しなければならない。それができないのだ。それで97年4月17日から5月2日まで戦争を起こすことを想定し、全国的な規模で戦争訓練を行った。私も参加した。訓練の結果「このぐらいならば、戦争ができる」との総括をした。演習を行ったのは、主席に就任するか、戦争を起こすか、どちらかを金正日が最終的に決めるためだった。ごますり将軍らは「軍は準備ができています。後は、将軍様が命令を出すだけです」と報告した。ところが、軍の長老が「戦争はできない」と答えた。軍人は十分に食べれず、栄養失調の状態にある。リュックを背負った強行軍も、重い砲弾を動かすこともできないと。戦争をするには今から栄養をつけても6か月はかかると。また戦争をするには少なくとも何ヵ月分の食糧がなければだめだと。結局金正日は戦争を断念し、別な道を選択した。但し、今後米国と日本があまにも強硬な姿勢を取った場合、戦争が起きる危険性はある。力の理論で出てくれば、北朝鮮が戦うのは間違いない。どっちみち死ぬのならば、日本に対しても米国に対しても打撃を与えようと。そうした準備は完璧ではないが、ある程度できている。自暴自棄のような状態になる可能性もある。「俺も死ぬが、お前も死ぬ」といった具合にだ。
――当時の訓練は戦争遂行能力を総点検するためのものだったのか?
最終的な点検をするためだ。「15日間作戦」と呼んでいた。15日間で韓国の全地域を侵略し、統一させるという攻撃訓練だった。全国的な訓練だ。軍、党、郡それに社会安全部と国家保衛部、法務部などで行われた。武器は使わなかった。
――しかし、国内上の理由から戦争を起こすとは考えられない。また当時それを示唆する動きもなかったように思われる。戦争を起こさなければならないほど北朝鮮は窮地に立たされていたということか?
97年に餓死者が多かった。どれだけ多くの人が死んだと思っているのか?食糧が30%しか生産できないということは、1年のうち4か月しか食べられず、後の8か月は何も食べられず、飢えるしかない。どんな健康な人でも15日しか持たない。食糧危機を解決するために戦争を起こそうとしたのではなく、金正日にとっては危機を解決するには戦争しかなかったということだ。その戦争をできるかどうかを最終テストするために訓練を行ったのだ。金正日は結果的に戦争をするほどの力がないと判断した。それで、経済に責任を負わないようにするため主席のポストには就かず、国防委員長だけに止まった。軍隊に収める食糧は保障し、「後は自分で解決しろ」と言うことだ。黄海沖で銃撃戦が起きたのも食糧問題を自力で解決しなければならなかったからだと思う。
――食糧危機の原因を国民はどうみているのか?
自立能力がないことに尽きる。世界を見渡しても今は資本主義市場しかない。北朝鮮は社会主義国で、今は一人ぽっちだ。以前はソ連、中国、東欧社会主義陣営があったので飢えの問題はなかった。社会主義陣営がなくなって、飢餓問題が発生した。それが今日に至っている。米国の経済制裁や日本との関係悪化などの影響もあるが、問題は、社会主義市場がなくなったことだ。日本だって、市場がなくなれば、飢え死にするほかない。
――食糧支援についてはどういう考えを持っているのか?
今のやり方ならば反対だ。食糧支援をすることは戦争を起こしてくれというものだ。要は戦争を起こさせないで、飢えた人々に直接支援できる方法を検討すべきだ。◆