2010年11月15日(月)

軽水炉建設はゆさぶりか、本気か?

 米国のジャック・プリチャード元朝鮮半島和平担当特使に続いて今月訪朝した核問題の専門家である米ロスアラモス国立研究所のヘッカー元所長に対して北朝鮮が「寧辺の核施設で小規模な実験用軽水炉を建設している」と説明していたことが明らかとなった。

 今月上旬に寧辺の核施設を視察したプリチャード氏も「5千キロワット黒鉛炉は封鎖され、冷却塔も破壊されたままだ。核燃料棒の再処理などが行われている様子もない」(6日)と語っていたものの、実は会談相手の金桂寛第1外務次官から「ウラン濃縮は継続している」と伝えられていた。

 「北朝鮮に核開発活動再開の動きは見られなかった」とのプリチャード氏の説明に正直安堵していたが、米研究機関の科学国際安保研究所(ISIS)が寧辺の核施設周辺で9月末に捉えられた衛星写真から「何らかの工事が行われている」と指摘していた問題の工事が、一昨年破壊された冷却塔の建設ではなく、実験用軽水炉工事であったことが判明した。ヘッカー元所長の印象ではまだ掘削の段階で、完成までに数年はかかるという。

 軽水炉の制作、建設は、簡単ではない。軽水炉の製作技術を持っている国は米国、ロシア、日本、中国、フランスそして韓国の6か国ぐらいである。

 北朝鮮側の説明では軽水炉の出力は25メガ〜30メガワットという。北朝鮮が現在保有しているプルトニウム型核爆弾(長崎級原爆)は80年代にソ連から導入した5メガワットの実験用原子炉から抽出したものだ。当初は「電力問題を解決するための商業用の実験のため」と説明していた。

 黒鉛型重水炉と異なり、軽水炉から抽出されたプルトニウムで核兵器を造るには高度の技術が必要で困難とみられている。憂慮されるのは軽水炉がウラン型核開発に利用される恐れがあることだ。

 軽水炉の原料はウラン235が3〜5%交じった低濃縮ウランを使用する。軽水炉の燃料(3〜5%程度の低濃縮ウラン)製造のためにはウラン濃縮技術が不可欠だ。

 天然ウランや数パーセント程度の濃縮ウランでは核兵器には使用できないが、濃度を2〜3%度高める技術を取得できれば、ウラン濃度90%以上の武器級高濃縮ウランを生産できる。

 北朝鮮が濃縮ウランの技術を取得することになれば、低濃縮から高濃縮のウラン核爆弾(広島型原爆)の開発に向かう可能性もある。イランの核問題がこのケースにあたる。

 問題は北朝鮮の本気度である。北朝鮮は本気なのだろうか?確かに軽水炉建設についは北朝鮮は早くから言及していた。

 昨年のテポドン・ミサイル発射(4月)で国連安保理が北朝鮮を非難する議長声明を採択した時に北朝鮮は外務省声明を通じて「自衛的核抑止力の強化」すると宣言すると同時に初めて「軽水炉を自ら建設する」と公言していた。

 さらに核実験(5月)で国連が制裁決議を採択すると、北朝鮮外務省はウラン濃縮作業の着手を宣言し、そして3ヵ月後の9月3日には北朝鮮国連代表部は国連安全保障理事会議長宛てに手紙を送り、「ウラン濃縮試験が成功裏に進み結束段階に入った」と通告した。ブッシュ政権の時は濃縮ウラン開発は「やってない」と言い張っていたが、今度は実質的に「公然とやる」と開き直ってしまった。

 そして、今年3月29日には米国が米朝対話に出てこないことに苛立ち「2010年代には自らの核燃料で稼動できる軽水炉が我々の回答となる」と脅し4月9日には米国の「核体制検討(NPR)」報告書との関連で北朝鮮外務省は「米国の核脅威が続く限り我々は抑止力として各種核兵器を必要なだけ増やし、現代化させる」と威嚇していた。

 こうしたことから米国核軍縮シンクタンクの科学国際安保研究所(ISIS)のデイビッド・オルブライト所長とポール・ブレネン研究員は先月8日発表した「評価 北朝鮮のウラン濃縮プログラム」という題目の報告書の中で「北朝鮮の高濃縮ウラン(HEU)開発が実験室段階を越え、ウラニュームを濃縮するため試験的な工場を建設できる水準まで到達した」と結論付けていた。

 どうやら初期的段階での開発技術は持っているようだが、それでも軽水炉工事はまだ掘削の段階にある。「完成までに数年はかかる」ことから米国に対する北朝鮮特有のゆさぶりであることは間違いない。だからといって「核の暴走」をこのまま放置すれば、近い将来プルトニウム型爆弾に続いてウラン型爆弾まで手にしかねない。そうなれば、周辺国が認めようと認めまいと、北朝鮮は名実共に「核保有国」になってしまう。