2011年2月25日(金)

濃縮ウランで中朝の見解が異なる理由

 朝鮮半島情勢は、2週間前に南北高位級軍事会談再開の実務交渉が決裂してから再び膠着状態に陥った。事態を好転させるため中国が必死に動いているが、米韓は南北対話で北朝鮮が哨戒艦沈没事件と延坪島砲撃事件の関与を認め、謝罪し、再発阻止を約束すること、北朝鮮のウラン濃縮問題を国連安保理で取り上げ、何らかのペナルティを課すことが先決であるとの立場を譲ってない。

 中国は、核問題を早期に解決するには6か国協議の開催が急がれるとして、濃縮ウラン(HEU)問題は国連安保理の場ではなく、6か国協議の場で討議するよう説得を試みているが、米韓との溝は埋まってない。

 こうした立場から中国は、昨日国連安保理による北朝鮮のウラン濃縮施設に関する報告書の採択と公表を「ウラン濃縮が事実であるかわからない」との理由で反対したようだ。

 国連制裁委員会傘下の専門家パネルが昨秋に訪朝し、北朝鮮関係者の案内で濃縮施設を見たヘッカー米スタンフォード大教授の証言を基にまとめた報告書を「個人的な見解に過ぎない」というのが、反対の理由のようだ。「国連安保理での討議に反対しない」と伝えられていたロシアもこれに同調したとのことだ。妙な話だ。

 中国は「北朝鮮がやっているかどうかわからない」と詭弁を弄しているが、当の北朝鮮は自ら再三にわたってウラン濃縮作業をやっていると堂々と宣言している。それにもかかわらず北朝鮮の主張を擁護すべき立場の中国がその逆のことを言っているわけだから、これでは北朝鮮の主張を「信憑性がない」と言っているようなもので、実に変な話だ。

 北朝鮮は2009年6月13日に外務省声明を通じてウラン濃縮作業の着手を宣言し、同年9月3日には国連安全保障理事会議長宛の手紙の中で「ウラン濃縮試験が成功裏に進み最終段階に入った」と伝えていた。このことは翌日の朝鮮中央通信が報じていた。

 施設が完成し、稼働したからこそ、昨年11月9日(〜13日)に核専門家のヘッカー教授(元ロスアラモス国立研究所長)を寧辺に招請し、施設を誇らしげに見せたのだろう。

 北朝鮮関係者の案内で施設を見て回ったヘッカー教授は「あまりにも立派な施設なので驚いた。1000基以上の遠心分離機があった」と訪朝後に語っている。

 その後も、北朝鮮は労働新聞が11月30日付で「数千基の遠心分離機を備えた近代的なウラン濃縮工場が稼動している」と報じ、12月29日付でも「数千台の遠心分離機を備えるウラン濃縮工場が正常稼動している」と報じ、「軽水炉発電所建設を通じた核利用は正当な権利だ」と改めて主張していた。

 軽水炉については、クリントン・ブッシュ両政権で朝鮮半島和平担当特使を務めたプリチャード米韓経済研究所(KEI)所長がヘッカー教授よりも一週前(11月2〜6日)に訪朝した際に北朝鮮高官から「寧辺に軽水炉を建設中」だと聞き、米国政府に報告している。

 北朝鮮自らが公表、公開しているのに中国が「事実であるかわからない」と言うのでは当の北朝鮮が一番驚き、理解に苦しんでいるのではないだろうか。

 中国はどうやら、北朝鮮が一昨年同様に国連の制裁決議を口実に大陸弾道弾ミサイルの発射や核実験を行う気配を察知し、規制を掛けたのではないだろうか。