2011年1月21日(金)

南北軍事会談開催提案の北朝鮮の狙い

 朝鮮半島の軍事的緊張を緩和するための高位級軍当局者会談の再開することとなった。良かった。米中首脳会談の効果が早速出たようだ。ホワイトハウスのギブス報道官も会談開催は「米中首脳会談の成果によるもの」との談話を出していた。

 南北対話合意は、年頭からの北朝鮮の対話の呼びかけを「偽装平和宣伝」に過ぎないとして、哨戒艦事件や延坪島砲撃、非核化の問題で北朝鮮が誠意ある具体的なアクションを起こさない限り、応じないとしていた韓国の態度変更の結果である。

 哨戒艦沈没事件が発生した昨年3月、事件後の国民向け談話で李明博大統領は「北朝鮮間は韓国と国際社会に謝罪し、事件の関連者を直ちに処罰すべきだ。これこそ北が真っ先に取るべき基本的責務である」と北朝鮮に警告した。そして、11月23日に延坪島を攻撃された際にも同じように@謝罪A責任者の処罰B再発の防止の3点を南北対話復元への条件として提示していた。

 しかし、今日まで北朝鮮は韓国の要求を一切受け入れてない。哨戒艦事件については「無関係」を主張し、延坪島砲撃事件では逆に「韓国の責任」を問い、そして非核化問題では誠意あるアクションどころか、逆に軽水炉建設の着手、ウラン製造工場の開示と、非核化に逆行する行動に出ていた。

 李明博政権は北朝鮮の核の暴走を一刻も早く止めるため6か国協議を急ぎたいオバマ政権からの説得もあって、その後「責任ある措置」と再発防止の約束、そして非核化への誠意さえ確認されれば、南北対話及び6か国協議に出る用意があると、ハードルを下げたものの、結局のところ、北朝鮮から謝罪の言質を取り付けられないまま、またその確約も取れないまま、さらには非核化での具体的な誠意ある行動として求めていたIAEA職員の復帰や濃縮ウラン工場の稼働停止が実現されないまま北朝鮮からの提案を受け入れるはめになってしまった。米中首脳会談で南北対話の必要性が強調された直後だけに対話に消極的であると見られるのは得策ではないとの判断があったのだろう。

 北朝鮮の軍事会談の提案を読むと、一連の責任の所在や謝罪に言及せず単に「見解」を明らかにすると言っている。哨戒艦撃沈事件を「哨戒艦事件」と呼称し、延坪島砲撃事件を「延坪島砲撃戦」と呼称していた。前者の呼称は、魚雷攻撃の否認を、後者については「お互い様」ということのようだ。韓国が議題に求めている非核化についても一言の言及もない。韓国ではもしかすると、謝罪があるのではと期待する向きもあるが、「朝鮮半島の軍事的緊張状態を解消しよう」と提言しているところをみると、逆に韓国の民間団体による北朝鮮向けビラ散布と、韓国が自国の領海と譲らない黄海上の北方限界線(NLL)問題を提起するのは明らかだ。

 しかし、これでは韓国が納得するはずもなく、やはり北朝鮮から韓国が謝罪とも受け止めることのできる「遺憾の意」があればと思うのだが、北朝鮮側の団長となるかもしれない金英春人民武力相がそれを口にすることができるとも思えない。北朝鮮の最高位軍事会談の呼びかけは、韓国に対してよりも、米朝や6か国協議開催の環境づくりの一環として米国に向けられたものと、解釈するのが自然だろう。

 案の定米国は、北朝鮮が提案した南北軍事会談を韓国が受け入れたことについて米ホワイトハウスのギブス報道官が直ちに歓迎の意向を表明した。実に素早い反応だ。換言すれば、オバマ政権は北朝鮮が軍事会談を韓国に提案したことを評価したことにもなる。

 北朝鮮は 高位級軍事会談の開催を2月上旬に、そのための実務者交渉を今月下旬に催することを呼びかけている。開催実現を2月16日の金正日総書記の69歳の誕生日に向けての成果にしたいのだろう。