2011年11月17日(木)
ブーイングの平壌での日朝W杯予選試合
火曜日に行われた平壌でのサッカー日朝戦は消化試合ではあるが、予選に脱落し、W杯への道が断たれた試合に、それも負ける可能性の高い日本戦に北朝鮮当局がどれだけの観客を動員するのか注目されたが、5万人収容の金日成スタジアムが超満杯だった。
北朝鮮は勝って気勢を上げていたが、仮に負けていたらそれこそ意気消沈となっていただろう。来年が目標である「強盛大国」建設に向けての人民の士気にも差し障るどころではない。平壌市全体が沈んでしまいかねない。北朝鮮当局にとってはまさに危険な賭けだったが、幸いに裏目に出ず、ホッと胸をなでおろしていることだろう。
応援ぶりをみていると、北朝鮮の観客の多くは、北朝鮮が11日のアウエーでのウズベキスタンとの試合に敗れ、予選落ちしていたことはおそくら知らされていないだろう。それもそのはずで、北朝鮮の国営通信は、中国で13日に行われたU16女子アジア予選でタイとの試合を8−0で勝ち、北朝鮮が来年に行われるU-17W杯出場を決めたことを報道しても、11日のウズベキスタン戦の結果については一切黙殺していたからだ。
それにしても、あのブーイングはひどすぎるというか、不快感すら覚えた。過去を清算するどころか、敵視政策を取り続ける日本に対して北朝鮮の国民が嫌日、反日感情を抱くのは致し方のないところだが、北朝鮮当局が観客を動員し、応援までコントロールしていたなら、ここは感情を押し殺して、国際慣例とスポーツマン精神にのっとり、国民に日本の国歌吹奏にも礼を守るよう指導してしかるべきではないだろうか。
というのも、このブーイングの場面を見て、2008年2月に平壌でコンサートを開いた米国のニューヨーク・フィルハーモニックの平壌公演を思い出したからだ。
米国は日本と同じように国交がないどころか、北朝鮮にとっては不倶戴天の敵国である。それでも、舞台の袖に掲げられていた米星条旗に敬意を表し、米合衆国国家が演奏された時、観客は全員起立し、直立不動のまま米国の国歌に聞き入っていた。そして、演奏が終わると、熱烈な拍手で応えていた。
おそらく、この公演に集った観客の中に誰一人として「親米」はいなかったはずだ。それでも、マナーよろしく、北朝鮮の観客はどの国のコンサートでもみられるような紳士淑女らしい振る舞いをしていた。その結果、指揮者、そして演奏者、及び同行した米国の関係者らは気分を良くして、帰国した。
現地から米国のテレビ局が伝えた映像でこの場面を見た米国民も決して悪い気はしなかっただろう。中には好感を抱いた人もいたかもしれない。米国はそのお返しとして、来年に平壌交響管弦楽団を招くとの話もある。
米国に対してできたことが、なぜ、日本に対してはできなかったのだろうか? 悲しいというか、残念で仕方がない。だが、これが正直、今の日朝の現実だ。北朝鮮にとっては、米国はラブコールの相手であるが、制裁を科している日本は依然として北朝鮮が言うところの「100年来の仇敵」なのだろう。日朝双方にとって実に不幸なことだ。
北朝鮮は関係修復の絶好の機会を逃したものだ。試合には勝っても、失った代償は大きい。