2010年2月4日(木)

「白米を食べさせたい」との「金正日発言」

 労働新聞(2月1日付)は「食糧難」に関する金正日総書記の発言を次のように伝えた。

 「私は人民がまだトウモロコシの飯を食べていることに最も胸が痛む」「いま私が行うべきことは、この世で一番立派なわが人民に白米を食べさせ、小麦粉のパンや麺を腹いっぱい食べさせることである。わが人民をとうもろこし飯を知らない人民としてこの世に立たせよう」

 労働新聞は確か、先月9日にも「首領様(故金日成主席)は人民が白米ご飯に肉のスープを食べ、絹の服を着て瓦屋根に住むようにしなければならないと言われたが、われわれはこの遺訓を貫徹できずにいる」との金総書記の言葉を伝えていた。

 金総書記が父親から権力を継承して、16年。いまだ、金主席の遺訓を実現できないでいる。

 金総書記は今から26年前の42歳の誕生日に際して開いた党中央委員会責任者協議会で「人民生活を向上させるために」と題して演説をぶったことがある。

 「人民生活を高めることが労働党の最高原則である。祖国統一への戦いは北と南の政治的戦いのみならず、深刻な経済戦でもある」と強調し、「経済戦争」で「韓国を圧倒するよう」幹部らに檄を飛ばしていた。

 それが今はどうだろうか。「韓国との経済戦」の話どころではない。金主席亡き後の1995年―96年には建国史上最大の飢饉を招き、その結果、ユニセフやWFP(世界食糧計画)の当時の統計では、7歳以下の児童の栄養失調状態は60%を超え、餓死者も推定で50万人以上も出す惨状だった。金主席の時代には年間一桁に過ぎなかった脱北者も今では2千人を超す始末だ。国を捨て「敵国」の韓国に渡っているのが現状だ。

 先代の遺訓も守れない、韓国との経済戦でも敗北となれば、普通の国ならば、最高指導者はとっくに失脚、もしくは更迭されている。

 今回の発言が「今まで辛い思いをさせてきて申し訳ない。これからは国民生活の向上のために全力を尽くす」という反省ならばまだ救われる。そうでなく、高まる国民の不満をかわすための一時的な単なるエクスキューズならば、5年後、10年後、また同じような発言を繰り返すことになるだろう。

 昨年12月のデノミ政策が失敗し、物価が高騰し、一部の地方では餓死者が発生したとの情報も伝わっている。「空のどんぶりを前に社会主義を説くことなかれ」と金総書記が自らが認めているように人民にとっては腹が減っては、忠誠心どころの話ではない。

 米国の脅威に対抗するため予算を軍事費に回したため経済を犠牲にせざるを得なかったとの事情はわからないわけではない。表向きの軍事費は国家予算の14%前後と発表されているが、実際はもっと多いだろう。約半分の50%を占めているとの見方もある。だからこそ、昨年もテポドンや核実験に10億ドル近くつぎ込むことができたのだろう。軍事費を削減し、経済に回せば、経済再建は不可能ではない。豊かになれる条件はいくらでもある。

 父親である金主席の遺訓は国民の衣食住の解決と朝鮮半島の非核化である。

 「人民に白米を食べさせたい」ならば速やかに6か国協議に復帰し、核を放棄し、米国との間で平和協定を結び、韓国と日本との間でも拉致などの人道問題を解決し、関係改善、正常化を果たしてもらいたいものだ。それが、「この世で一番立派」と思っている人民を一日も早く飢餓と貧困から救済する術でもあり、道でもある。

 一部報道では、経済を担当する朴南基労働党計画財政部長を経済政策失敗の責任を取らせて更迭させたと伝えられているが、北朝鮮の経済不振は個人の責任問題ではない。1995年の飢饉の時も金主席の忠実な部下だった農業担当の徐寛煕党書記一人に責任を負わせ、挙句には哀れにも「米帝国主義の指示を受け、わが国の農業を破綻させたスパイ」とのレッテルを貼り、処刑したことがあったが、トカゲの尻尾切りはいつか来た道に過ぎない。

 今回の金総書記の発言が、心底の発言であって欲しい。