2013年2月19日(火)

「北の暴走」を止められない国連制裁決議

 北朝鮮の核実験強行から1週間過ぎたが、国連安保理はまだ制裁決議を出せないでいる。

 ミサイル(衛星)発射で制裁決議(2087号)を採択し、制裁を科したばかりなのに、1か月もしない間に核実験でもう一度、さらなる制裁を議論しなければならないわけだから、慌ただしい限りだ。

 過去のケースをみると、一度目の2006年の時は、5日間で制裁決議が採択されているが、二度目の時は、18日間時間を要した。前例を参照にすれば、遅くとも今月中には採択されなければならない。

 但し、焦点は採択の時期ではなく、その中身にある。

 昨日(18日)欧州連合(EU)は外相理事会を開き、国連の制裁決議に先駆けて、3度目の核実験を実施した北朝鮮に対して制裁措置を強化することで合意した。

 新たな制裁として、北朝鮮国債や金、貴金属、ダイヤモンドの取引と北朝鮮の銀行によるEU域内での支店開設と欧州の銀行による北朝鮮での支店の開設が禁止された。

 中国への経済的依存から抜け出すため欧州との貿易拡大に乗り出していた矢先だけにEU26か国における資産凍結、送金禁止措置に加え、金融制裁を含む今回のEUの制裁は北朝鮮にとって痛手となるだろう。

 EUはこれまでぜいたく品の輸出禁止の他に独自に制裁対象の個人と団体を定め、資産凍結、旅行制限などの措置を取ってきた。

 個人の制裁対象には金正恩党第一書記の叔父でもあるNo.2の張成沢と金英春、呉克烈の3人の国防副委員長を含む5人の軍首脳と、核とミサイル開発の党責任者である全炳浩軍需工業担当党書記(現在は退任)と実務責任者である朱奎昌党機械工業部長の二人が含まれていた。さらに、金ファミリーの海外資産を管理する金庫番であった「39号室」の金東運室長もリストアップされていた。

 それでも最高責任者である金正日総書記は外されていた。今回もミサイルの発射を自ら直接指示したことを明らかにしたにもかかわらず金正恩第一書記は制裁対象者から除外されていた。

 国連憲章第7章第41条に基づく制裁決議には「北朝鮮の核関連、弾道ミサイル関連及びその他の大量破壊兵器関連の計画に関係のある北朝鮮の政策に責任を有している」人物が制裁対象者に規定されている。

 規定に則るなら、金正恩国防第一委員長を筆頭にした12人の国防委員全員が含まれなければならない。

 また制裁決議には「北朝鮮の政策を支持し又は促進することを通じた者」も対象とされている。ならば、祝賀大会で演説した最高人民会議常任委員会の金永南委員長を先頭に国際会議の場でミサイル発射や核実験を正当化している外務省の朴宜春外相や米朝交渉の場で米国の説得に耳を貸さなかった金桂寛外務第一次官らもその対象となってしかるべきだ。

 ちなみにサダム政権下のイラクに対する国連安保理制裁委員会が作成したブラックリストにはフセイン大統領を含め89人の個人と206人の組織がリストアップされていた。

 結局のところ、金第一書記らの海外渡航を禁止すれば、中朝首脳交流はおろか、再開を期待している北京での6か国協議や、ニューヨークでの米朝接触に差し障りがあることから除外扱いにせざるを得ないようだ。北朝鮮が「6か国協議には二度と出ない」「非核化議論はしない」と、その種の対話を拒否しているのに封じ込めず「抜け道」を作ってきたのがこれまでの国連制裁である。

 また、第41条には「外交関係の断絶を含むことができる」と記されているが、二度も、三度も核実験を強行しているにもかかわらずEUを含め北朝鮮と国交を結んでいる163か国のうち国交断絶を名乗り出た国は1か国もないのが現実だ。

 さらに不思議なことがある。一度目の核実験の時は、日米両国とも「第42条」を押し通そうとしていたのに二度目の前回は国連制裁「第42条」には全く触れなかったことだ。

 「第42条」には「安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる」となっている。

 北朝鮮が「第41条」を無視して、ミサイル発射と核実験を再三にわたって繰り返しているわけだから、本来ならば、「第42条」の適応を求めるのが筋のはずである。しかし、これも「北朝鮮の暴発を招く恐れがあるから」との理由から適応できないでいる。

 現在、国連で議論されている追加制裁では@軍事的強制措置を定めた国連憲章第7章の明記A北朝鮮船舶への強制的貨物検査の承認B北朝鮮の金融機関を締め出す金融制裁が採択されるかどうかが、どうやら最大の焦点となるだろう。

 日本などが強く主張している金融制裁や融資の禁止については北朝鮮の最大の貿易国である中国が「一般国民の生活に影響を与えてはならない」とか「6か国協議再開への道を開いておかなければならない」とかなんとか言って、拒んでいるようである。

 北朝鮮船舶に対する臨検についても「公海上での貨物検査は不必要な軍事衝突を招く」と中国は慎重な姿勢を崩していないようだ。まして、北朝鮮に出入りする外国の船舶への臨検となると、中国の船が最もその影響を受けることになるので、なかなか首を縦に振りそうにもない。

 やはり、今回も中国が鍵を握っているようだが、制裁の中身、濃度に関係なく、米国との全面対決に打って出た北朝鮮は躊躇うことなく、新たな制裁決議に対抗手段を取ることになるだろう。