2009年12月3日(木)

北の貨幣改革

 貨幣改革が1992年以来、17年ぶりに実施された。交換率は100対1だ。100ウォンが一瞬にして1ウォンとなる。ちなみに17年前は1対1の交換だった。

 交換期間はわずか1週間。12月6日までに旧札を新札に交換しないと、12月7日からは旧紙幣は使えなくなる。

 一人の交換限度額は10万から15万ウォンまでと限られている。10万〜15万ウォンは米ドルだと、40ドル程度。北朝鮮では4人家族が二ヶ月ぐらい生活できる金額だ。

 一説では、20万ウォンまでは交換可能だとのことだが、10万ウォンまでは100対1で交換するが、残りは半分の10万ウォンは1000対1での交換になるとの情報もある。仮に20万ウォンまでが限度額だとすると、それ以上の所持金は、紙切れ同然となるが、一説では、30万〜300万ウォンまでは銀行預金が認められるようだ。但し、預金はできても、自由に引き出すことはできない。満期の期限もなく、当局の許可が出るまでは、引き出せないらしい。

 北朝鮮の一般人は銀行に預けず、多くがタンス預金している。銀行に預けないのは利息がほとんど付かないばかりか、資産状況を当局に把握される恐れがあるからだ。金の出所を調べられ、へたをすると、没収されることもあり得るからだ。従って、仮に預金が無制限に認められたとしても、残余金を銀行に全額預けるとは思えない。

 今回の突然の発表に北朝鮮の人々は仰天、当惑している。手持ちの金をどうやって交換、消費するか頭を痛めている。これが他の国ならば、暴動が起きても不思議でない。紙幣交換場に警官だけでなく、軍隊まで動員し、監視を徹底させているのは、北朝鮮当局もそうした事態を恐れているのだろう。

 発表直後は、紙くず同然になる前に食糧や日常品、電気製品、高価品などを購入してしまおうとの動きもあったようだ。それで、闇市場ではコ一時メ1キロ2000ウォンがなんと、20倍の4万ウォンまで急騰したそうだ。ある市場では豆腐一丁500ウォンが1万ウォンに跳ね上がったとの情報もある。

 しかし、17日から旧札が使えないことをわかると、商店も市場売人も、店を閉め、物を売らなくなったようだ。商取引、物の売買が成立しなければ、経済が麻痺したも同然だ。

 情報を事前にキャッチした一部の特権層や富裕層が中国人民元や米ドルに両替しようとしたため闇市場では人民元とドルも暴騰したという

 いずれにせよ、今回の貨幣改革で、闇市場、地下経済は壊滅的打撃を受けることになるだろう。

 北朝鮮の経済誌「経済研究」は最新号で「貨幣の偶像化は社会主義経済関係を蝕むことになる」と、北朝鮮国内にはびこる金満主義に警鐘を鳴らしていたが、まさに北朝鮮の狙いは、体制の瓦解を招きかねない金銭第一主義の昨今の時流、風潮を是正し、配給制を中心とした社会主義経済計画の建て直しを企図しようとしているようにもみえる。

 配給による統治こそが体制の求心力維持の源泉であり、それ即ち、次の後継体制の擁立、確立に結びつくと、判断したが故に体制のコントロールから離脱した闇市場の消滅に乗り出しのではないだろうか。吉と出るか、それとも凶と出るか?