2010年6月8日(火)

崔永林内閣発足

 北朝鮮で最高人民会議が開かれ、注目の人事の発表があった。

 義弟の張成沢国防委員が、僅か1年で国防副委員長に昇格するとは予想もしてなかった。後継者に内定した三男の正恩氏を擁立するための布陣を敷いたのだろう。

 張副委員長は、「三代目将軍」を補佐する後見人、言わば「水戸光圀」のような役割を担うことになるだろう。軍歴のないシビリアンの張成沢氏にとっては「国防副委員長」の肩書きはいわば、「紋所」と同じだ。No.2としての彼の発言力は今後ますます強まるだろう。

 閣僚では金英逸首相以下、経済担当大臣ら6人が入れ替わったが、新首相に選出された崔永林氏は昨年党政治局候補委員から9年間空席のままだった平壌市党責任秘書に電撃抜擢されたばかりだ。

 平壌市の責任者になるまでの1998年から2009年までの10年以上も、中央検察所長(検察庁長官)や最高人民会議常任委員会書記長をしていた人物を26年前に第一副総理のポストにあったからといって最も過酷な総理の座に引っ張り出すとは、よほど人材不足なのか、なり手がいないのかどちらかだろう。

 北朝鮮の場合、日本の総理とは違い、実権はない。一番難しい経済の舵取りを任されているだけだ。北朝鮮のような「不動の人事」にあって、最も異動の多いポストが実は総理のポストである。

 小泉純一郎元総理が最近、「日本は過去22年間で総理が16人も入れ替わった」とどこかで語っていたようだが、北朝鮮の場合は、最高権力者は不動だが、総理だけは回転ドアーのようにくるくると入れ替わっているのが実情である。

 まして、新首相に選出された崔永林氏は80歳と高齢である。確か、北朝鮮は先月、金鎰侮汾モ「年齢上の関係で全ての職から解く」と発表し、人民武力部第一副部長と国防委員の職を解任してしまった。本当に年齢が問題ならば、金次帥と同じ年の崔総理も本来ならば、引退してしかるべきだ年齢だ。

 北朝鮮にあって仮に80歳が「定年退職の年」にあたるなら病床の身にある今年84歳の趙明祿国防第一副委員長も88歳の李容茂副委員長も、また80歳になる金総書記の側近、呉克烈副委員長も当然その対象となるのだが、今回は不動のままだった。

 「金鎰侮汾ラ任」の謎は深まるばかりだが、いずれにしても日本では菅内閣が、北朝鮮では崔内閣がほぼ同時にスタートした格好となった。