2010年5月4日(火)
金正日訪中目的を考える
金正日総書記の電撃訪中の目的は、ずばり経済支援を取り付けることにある。6か国協議については経済援助の見返りに中国の顔を立てて、復帰の意思を表明するのものとみられる。
後継者に内定した三男のジョンウン氏の同行の可能性はない。まだ正式に発表もしていないし、国内でもまだお披露目もしてないのに外国で先にお披露目というのは道理に反するからだ。順番が逆で、国内でのデビューがあって、初めて対外的にデビューできるというもの。
ちなみに金総書記が1965年に父親の金日成首相(当時)に随行し、インドネシアを訪問したことがあったが、この時は23歳と、大学を卒業して1年しか経っておらず、後継者にもまだ決まってなかった。金総書記が初訪中したのは、1972年に後継者に正式決定し、1980年に党大会でお披露目されてから3年後の1983年だ。
神秘のベールに包んでいるジョンウン氏を、外国のメディアが手ぐすねを引いて待っている中国にさらけ出すような愚は犯さないだろう。
後継者問題については、同じく2012年に習近平副主席を後継者に定めている胡錦涛主席が金総書記と同じ年であることから健康絡みで聞けば、金総書記が胸中を明らかにするかもしれないが、後継問題を金総書記から先に切り出すことはないだろう。胡主席もすでに既成事実化していることをあえて聞くようなことはしないだろう。
韓国哨戒艦沈没事件も、仮に北朝鮮が関与していないならば、金総書記からわざわざ持ち出すことはない。但し、関与が事実ならば、中国の理解と支持を取り付けるためにも金総書記から先に釈明があるだろう。中国としても、30日に上海万博で会談した李明博大統領から事情を知らされた以上、金総書記に問いただすだろう。金総書記がどう答えるのか、興味深い。
昨日、大連で一泊した金総書記一行は、今日にも北京入りすると伝えられているが、一足先に北京入りした北朝鮮の歌劇団「血の海」の舞台公演が6日に初日を迎えることから胡主席と一緒に観覧するのではとの話も出ている。
「血の海劇団」は中国の歌劇を披露するが、昨年10月の温家宝総理訪朝時に披露し、金総書記が一緒に観覧していた。となると、今回の訪中は4泊5日となる公算が高い。それでも、前回の8泊9日に比べると、今回は随分と短くなる。
それにしても、No.2の金永南最高人民会議常任委員長の訪中から3日しか経ってないのにNo.1の金総書記が続いて北京詣でするとは過去になかった異例中の異例の出来事だ。
結局のところ、金永南委員長の訪中は金総書記の名代として、単なる万博に出席するためのものに過ぎなかったということになる。上海での金永南−胡錦濤会談も単なるセレモニー過ぎず、実質的に何の意味もなかったということだ。
健康が万全でない金総書記にとってはできることならば、訪中を控えたかったはずだ。シャトル外交の順番からも胡主席の訪朝が先との立場だった金総書記にとって、面子上、先には行きたくなかったはずだ。
しかし、結局のところ、経済支援を取り付けるためには足を引きずってまでも自ら訪中して、直談判せざる得なかった。それだけ、経済が逼迫しているのだろう。中国もまた、この時期に金総書記を招いたのは、金永南委員長からでなく、金総書記の口から直に6か国協議の対応など北朝鮮の内外政策の説明を受けたかったのだろう。
金総書記は、前回の旅(2006年1月)では中部、南部まで足を運び、広州で農場を視察したほか、武漢では光ケーブル工場、南部の深?ではレーザー化学工場、珠海では金融ソフトウエア開発センターなどを視察していた。
今回も大連では、港湾関連や、ソフトウエア開発センターなどを見て回ったと伝えられているが、やはり、日本海に面した羅先市を大連のような港湾都市、物流の拠点にするのが金総書記の夢なのだろう。