2010年10月13日(水)

「世襲反対」を公言した長男・正男の運命は?

 党代表者会を44年ぶりに開き、三男の正恩(ジョンウン)氏を後継者に決め、かつ党創建65周年の記念式典に華やかにお披露目させたまさにその日に長男が「私は3代世襲に反対する」と言ったわけだから金総書記にとっても青天の霹靂だろう。

 第一、北朝鮮では「世襲」という言葉は禁句である。北朝鮮が最もナーバスになっているこの禁止用語を正男氏は公然と使ったばかりか、あげくには北朝鮮を指して韓国が呼称している「北韓」という言葉も平然と口にしていたので、これまたビックリ仰天しただろう。

 「テレ朝」の聞き手が韓国系ジャーナリストということから親切心で相手に合わせたまでの話と言えばそれまでだが、「北韓」とは、韓国の一部、韓国の北側地域という意味合いがあり、韓国は北朝鮮を国家として認めないからこの呼称を用いているわけだ。

 北朝鮮にとっては日本が使う「北朝鮮」の呼称以上に反発する呼称だ。その証拠に今年南アフリカのワールドカップに出場した北朝鮮代表の監督が記者会見で韓国の記者が質問の中で「北韓」という言葉を使った瞬間、激怒して「この地球上に『北韓』という国はない」と一喝し、質問に答えなかったというハプニングがあったほどだ。

 それを、こともあろうに朝鮮民主主義人民共和国の建国の父である金日成主席の孫でもあり、最高指導者である金総書記の長男が使うとは、論外である。「世襲反対」発言といい、父親の金総書記は怒り心頭だろう。

 息子だから、長男だからこのような発言ができるのかもしれないが、これが他の者ならば、タダでは済まされないだろう。解任どころの話ではない。党幹部であっても、軍将軍であったとしても即刻収容所送りは免れないだろう。

 ギリシャ神話の世界でもあるまいし、北朝鮮のような儒教社会にあって親が息子を殺めることは考えられないが、それでも今後もこのような問題発言を繰り返すならば、正男氏を連れ戻し、幽閉し、二度と国外に出られないようにするかもしれない。

 問題児のままでいれば、金正恩体制になった暁には身に危険が及ぶかもしれない。そうなれば、マカオからフランス、あるいは米国に亡命することも考えられる。フランスには叔母〈母親の姉)と従兄弟が亡命しているからだ。(上記写真は金総書記と正男氏。後方の女性二人がフランスに亡命した叔母と従兄弟)

 正男氏が毎日見ている新聞は北朝鮮の「労働新聞」や「民主朝鮮」あるいは英字紙の「ピョンヤン・タイムズ」ではなく、韓国紙である。マインドはすでに韓国人である。だから、「北韓」という言葉もスラスラと出てきたのだろう。 

 正男氏はまた、「3代世襲には反対だが、内部事情があって仕方がない。父親が決めたことには従うし、弟が協力を求めるならば、海外から協力する」と語っていたが、気になるのはこの「内部事情」の発言だ。

 おそらく金総書記の健康不安が弟の擁立を急いだということを言いたかったのではないだろうか。事実父親の健康状態を聞かると「答えられない」とノーコメントを押し通していた。

 健康に問題がなければ「問題ない。大丈夫だ」と答えれば済むものをそう言わなかったところをみると、内部事情とは、金総書記の健康不安なのだろう。

 一昨年8月、父親が倒れたとき真っ先に中国に医療陣の派遣を要請し、また自らフランスに行き、脳外科専門医師の手配をしたのは、他ならぬ金正男氏だ。それだけに、正男氏の「ノーコメント」発言は気になる。