2011年2月22日(火)
エジプト、リビアの政変と北朝鮮
中東でドミノ現象化している反体制デモが北朝鮮に波及するのか?
結論を言えば、その可能性は残念ながら極めて低い。理由を挙げれば,切りがないが、主な理由を挙げると、
@北朝鮮は単一民族で、分裂要因となる異民族が存在しない。
A実質的に宗教も存在せず、スンニー派やシーア派などの宗派、及び部族対立のようなものもない。
B反体制運動の核となるべき野党も在野勢力も皆無である。権力中枢が強固である。
C国家安全保衛部、人民保安部(警察)など治安機関による統制が網の目ように徹底している。
D密告制度など住民間の相互監視システムが確立され、集団行動が取れない。
E捕まれば、国家反逆罪で処刑され、家族も収容所送りとなる恐怖政治が敷かれている。
F体制に不満を持つ層は国内に留まって立ち上がらず、国外に脱北してしまう。
G中東で民衆デモを誘発した携帯電話の所持者は北朝鮮では特権を甘受している階層に限られている。
Hメディアは官製で、言論の自由が保障されてない。外からの情報も完全に遮断されている。
Iチュニジア、エジプト、リビアよりも生活水準の低い北朝鮮にあっては今は、自由よりも食糧を求めるほうが優先、先決となっている。
J米韓など外敵と対峙している状況下にある。経済が苦しいのは、失政ではなく、外敵の圧殺政策にあるとして、国内の不満が外敵に向けられるよう誘導されている。「勝つまで求めない」との日本の戦前のような状況下にある。
K洗脳教育も徹底している。
L過去にルーマニアのチャウシェスク政権の崩壊や東ドイツなど東欧の瓦解、ソ連邦の崩壊、そして中国の天安門事件を目の当たりにし、危機を乗り切る「ノウハウ」を取得している。
隣国でもあり、最も頼りにしている同盟国でもある中国の共産党体制が崩壊すれば、モロに影響を受けるが、遠く離れた中東の地殻変動の余波は大きくないだろう。
それでも、中東の友好国だったエジプトのムバラク政権とリビアのカダフィ政権が民衆蜂起によって倒されたことについてどう説明するのだろうか?
聞くところでは、北朝鮮はムバラク政権の崩壊については「アラブの大義に背き、米国に寝返り、イスラエルと結託したことで民衆の支持を失った」と国内向けに宣伝していると伝えられているが、もしかすると、リビアのカダフィ政権に対しても同様のキャンペーンを展開するかもしれない。
というのも、リビアとの関係は一見良好に見えるが、実際はかつての蜜月関係はとっくに終わっており、今はむしろ疎遠の関係にあるからだ。
仲たがいの理由は、北朝鮮が1994年にクリント政権との間でジュネーブ合意(核廃棄合意)を交わした時、カダフィ大佐が「昨日まで反米国家だった北朝鮮は金日成(主席)が死ぬや、反帝国主義の路線から離脱し、米国の浸透を許している。北朝鮮の反帝国主義路線は詐欺だった」と北朝鮮を猛烈に批判したことによる。
ところが、そのリビアが2003年に核開発の全面破棄の受け入れを表明した際には今度は北朝鮮が「米帝国主義の威嚇・恐喝に負けて、戦う前にそれまで築いてきた国防力を自分の手で破壊したり、放棄する国がある。恥知らずにも他の国々に対して自分の『模範』に見習えと勧告までしている」と、「偉大な9月1日革命の指導者」と持ち上げてきたカダフィ大佐を痛烈に批判していた。
リビアと北朝鮮とのバトルは、2008年9月1日、金永南最高常任委員長がカダフィ大佐にリビア革命39周年に際して連帯の祝電を送って収拾したものの、今では「反米兄弟国」としての面影はない。
仮にカダフィ政権が倒れることになれば、北朝鮮は「リビアの変節」が今日の崩壊に繋がったとの当時の批判を展開するのではないだろうか。