2013年1月14日(月)

金正男は今、どこに?

 故金正日総書記の長男、金正男氏が消息を絶って久しい。

 正男氏は、ご存じ、北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)第一書記の異母兄でもある。正男氏は次男の正哲氏と共に後継者が三男の正恩氏に決まる2009年までは有力な後継者の一人とみなされていただけに彼の動静には無関心ではいられない。

 正男氏は2010年10月に北京で日本のテレビとのインタビューに応じ「3代世襲には反対だ」と発言して以来、2年数か月にわたってその姿をキャッチされてない。

 また、2011年1月中旬に東京新聞の五味洋治記者のインタビューを最後に新聞記者とも会ってない。五味記者は、正男氏との250通に及ぶメールを基に「金正日と私 金正男独占告白」を昨年1月に出版したが、そのメール交換も2011年の12月を最後に途絶えているようだ。

 この間、昨年2月には「ホテル滞在費も払えず、金銭的に苦労している」(ロシア週刊誌)との報道や、6月には「身辺の危険を感じ、一定の場所に定着せず、世界各地を転々としている」(韓国紙 文化日報)との報道もあったが、いずれも推測の域を出てない。

 そもそも、2011年12月に急死した父親・金正日総書記の弔問のため一時帰国したのかどうかも明らかになってない。帰国したとの情報もあれば、してないとの情報もある。

 韓国紙「東亜日報」(2012年6月27日付)にいたっては、北朝鮮消息筋の話として昨年5月に「正男氏が一時帰国していた」と報じていたが、前出の文化日報は、東亜日報の記事の前日に政府高位当局者の話として「正男氏は現在、身の危険を感じ、世界各地を転々としている」と報じたばかりだった。東亜日報の記事が事実なら、逆に文化日報の記事は嘘となる。

 東亜日報は「正男氏は身辺に危険があるのではなく、むしろ北朝鮮の指示で、(外国からの)投資誘致などの任務を実行しているのではないか」と、その根拠を記していたが、危険を感じてないなら父親の国葬(2011年12月)や100日喪(2012年3月)の時に帰らず、なぜ5月なのか、今一つ腑に落ちない。

 そうした単純な疑問を持っていたところ、「東亜日報」の記事から2日後には今度は韓国のTVが「正男氏は3月の100日喪に合わせて、平壌を極秘訪問し、追悼大会にも出席した」と報じた。なんと「弟の正恩第一書記とも会った」と言うのだ。

 本当かどうかわからないが、これもまた他の記事同様に情報元は「政府関係者」である。韓国のメディアは金正男氏についてはバーゲンセールというか、まさに書き放題である。

 おそらく、この記事も韓国記者特有の「作文」なのであろう。

 昨年10月にフィンランドTVがボスニア・ヘルツェゴビナに留学中の正男氏の息子、ハンソル君とのインタビューに成功しているが、彼は「祖父を見たことがない」と語っていた。正男氏が身辺になんら不安を感じていないなら、まして親族、肉親としての弔問のための帰国ならば、金正日総書記の孫であるハンソル君を連れて行かないはずはないからだ。

 一時的にも帰国したのか、それとも帰国できないままの状態が続いているのかは別にして、そもそも正男氏が今、どこにいるのかもわからないままだ。

 韓国紙、朝鮮日報(2012年11月15日付)は韓国政府筋の話として金総書記が亡くなった翌年の「1月にマカオからシンガポールに住居を移した」と伝えていた。また、朝日新聞(2012年10月16日付)は昨年10月にシンガポールを訪問した金正恩第1書記の後見人で叔母の金敬姫(キム・ギョンヒ)書記がシンガポールで「正男氏と接触していた可能性が高い」とも報じていた。

 その一方で現在、マレーシアに滞在しているとの情報もある。韓国のMBCの記者が昨年12月、韓国大統領選挙直前にマレーシアで単独インタビューに成功したとのことだ。

 インタビューしたのはMBCのバンコク特派員で「金正男と5分間面談した」と語っている。

 この特派員の話では、12月17日からマレーシアに張り込んでいたところ、正男氏が19日に現れたとのことだ。ところが、野党のチョン・チョンレ民主統合党議員(国会情報委員会民主統合党幹事)が今月8日「金正男の所在を把握しているのは国家情報院の他にいない。国家情報院の助けを得ずにクアラルンプールまで飛んで行きインタビューができるはずはない」と発言したことから、国家情報院が正男氏の韓国への亡命に備え、身柄を確保しているのではとの憶測も流れている。

 すでに昨年11月の時点で「身辺に不安を感じている正男氏が第3国で韓国政府当局に韓国への亡命を要請した」との未確認情報が流れていたが、これが事実ならば、もしかしたらすでに韓国に「護送」されている可能性もなくはない。

 正男氏が「第2の黄長Y(ファン・ジャンヨプ)」となるのか?いつ、どこに現れるのか、正男氏の動静が今後、大きな焦点となるだろう。