2011年1月18日(火)

南北の綱引きと米中首脳会談

 中国の胡錦濤主席が今日から訪米する。明日19日にはワシントンでオバマ大統領との米中首脳会談が開かれる。

 今回の米中首脳会談では朝鮮半島問題も焦点となる。米中双方とも、朝鮮半島の緊張緩和、安定維持という点では一致している。また、核問題解決のためには6か国協議が引き続き重要であるという点でも共通の認識である。さらに、6か国協議再開のためには対立状態にある南北がまず対話し、緊張を緩和しなければならないという点でも考えは同じである。

 北朝鮮を擁護する6か国協議の議長国である中国の胡錦濤主席は朝鮮半島の緊張激化は米朝交渉の不在と6か国協議の中断が原因であるとし、米国に平壌との直接交渉と6か国協議の早期再開を求めている。これに対して韓国の同盟国である米国のオバマ大統領は米朝直接交渉と6か国協議開催には南北対話が先行しなくてはならないとの立場だ。また南北対話と6か国協議再開のためには北朝鮮が誠意を示す必要があり、その点で北朝鮮に働きかけるよう中国の協力を要請している。

 米中から韓国との関係改善を迫られた北朝鮮は今月10日、韓国政府に当局者会談を呼びかけ、そのための実務接触を1月27日に開くよう提案。併せて旧正月の南北離散家族再会のための赤十字会談を2月1日に開催することも提案。提案が本気であることを示すため閉ざしていた板門店の南北赤十字チャンネルも復活させた。

 北朝鮮はさらに12日には、南北合作プロジェクトである開城工業団地での事業再開をめぐる会談を2月9日に、金剛山観光事業再開に向けた会談を2月11日にそれぞれ開催することも矢継ぎ早に提案した。提案と同時に凍結していた開城工業団地の南北経済協力事務所での業務を一方的に再開した。

 しかし、韓国政府は北朝鮮の一連の提案は外交的孤立と経済苦境から脱するための平和偽装攻勢、米中首脳会談に向けの単なるプロパガンダーに過ぎないと懐疑的に捉えており、北朝鮮が南北対話に真剣ならば、その証として、過去の過ち(金剛山観光客射殺事件、韓国哨戒艦沈没事件、延坪島砲撃事件)について「責任ある措置」を取るべきで、そのための南北会談を逆提案している。

 韓国政府が求めている「責任ある措置」とは@一連の事件について謝罪することA責任者を処罰することB再発防止を約束することの三点だが、再発阻止とは「二度と挑発しない」ことを約束することだ。

 北朝鮮は「会えばわかる」として無条件対話を主張しているが、韓国は上記3点以外にも南北対話で北朝鮮の核問題を討議すること、6か国協議の再開に際しても北朝鮮が非核化への具体的な誠意を示すことを条件としている。「具体的な誠意」とは、寧辺の核施設から一昨年追放された国際原子力機関(IAEA)の監視員の復帰もしくは濃縮ウラン工場の稼働中止を宣言することのようだ

 北朝鮮は、哨戒艦沈没事件については関与を否定しており、また延坪島砲撃事件についても今日まで責任を認めていない。韓国側が期待するような謝罪はないだろう。また韓国側が求める「二度と挑発しない」ことを約束することも不可能だ。「挑発しない」と約束することは、米韓が一方的に引いた海の境界線である北方限界線(NLL)を認め、自国の領海とする海域での韓国の実効支配を容認することに繋がるからだ。

 北朝鮮が韓国の条件を呑むのか、それとも韓国が条件を引き下げるのか、米中が南北対話の再開の必要性を強調しても、当事者である南北が綱引きを止めなければいつまでも南北対話は開かれない。そうなれば、米中が早期開催を期待している核問題解決のための6か国協議も開かれない状態が続くことになる。

 南北の後見人である米中が険悪な関係にある南北をどうコントロールするのか、その結果、南北のどちらが譲歩するのか、あるいは折衷案が生まれ、妥協が成立するのか、それとも、このままこう着状態が続き、しびれを切らした北朝鮮が再び、核実験やミサイル発射実験に走るのか。明日の米中首脳会談が、今年の朝鮮半島の行方を決するかもしれない。