2010年12月22日(水)

北朝鮮が手を出さなかった理由

 危惧された韓国の延坪島周辺での射撃訓練による南北交戦は幸い、起きなかった。

 韓国の射撃訓練に北朝鮮が対抗措置として、応射していれば、確実に交戦状態になっただろう。「射撃訓練を中止しなければ、第2、第3の予想できない自衛的打撃を加える」と韓国軍を脅していた北朝鮮最高司令部は「韓国の挑発にいちいち応じる価値もない」と、対抗措置を取らなかった理由を説明した。

 それならば、これまでの「今後も、わが軍隊は南朝鮮軍がわが祖国の領海を0.001ミリでも侵犯するなら、躊躇せず無慈悲な軍事的対応攻撃を引き続き加える」との宣言や「空言を言わないというわが軍隊の厳重な警告にしっかり留意すべきである」との警告は一体何なのか?

 結局のところ、北朝鮮は韓国の「挑発すれば、戦闘機による空爆も辞さない」との脅しに屈した格好となっているが、そうだとすれば、この南北のチキンレースは、北朝鮮の負けということになる。となれば、後継者である金正恩(キム・ジョンウン)党軍事委副委員長の「威信」失墜となる。北朝鮮はこの「屈辱」を甘受するのだろうか?

 客観的にみて、北朝鮮が手を出せなかった、あるいは出さなかったのには様々な理由が考えられる。

 @11月の砲撃で、政治的目的を達成しているので、最初から、その気がなかった。延坪島を攻撃することで韓国が領海線と主張している北方限界線(NLL)の問題点を国際社会にアピールでき、かつ休戦協定を平和協定に替える重要性を強調することができたと受け止めている。

 A前回と違って、今回の演習には米、英、仏など国連軍司令部メンバーのほか、外国の取材陣が島にいたので、砲撃できなかった。巻き込めば、国際的非難を浴び、国連軍の介入を招く恐れがあったからだ。

 B韓国の砲撃が北朝鮮のマジソンライン(限界線)を超えなかった。北朝鮮は前回は「どこに落としても我々の領海である限り、報復する」と言っていたが、今回は予め「マジソンラインを超えた場合」と最初から線を引いていた。韓国軍の射撃演習は北朝鮮に背を向け行なわれ、それも前回(4時間)と違い1時間半と短時間に終わった。発射された弾薬も3、600発から半分の1、500発。さらに使用された火器も北朝鮮の沿岸には届かない射程距離5〜6kmの迫撃砲や2〜3kmの海岸砲がほとんどで、射程距離40kmのk−9自走砲は1600発中、たったの4発しか発射されなかったそうだ。

 C国連安保理で韓国に射撃訓練を中止するよう求めていた中国とロシアの顔を立てた。中国とロシアが南北双方に自制を求めていたことからそうした努力に応えることで、国際社会に「好戦的な韓国」と「平和志向の北朝鮮」というイメージを作り出そうとしたのではないだろうか。

 D「我慢するように」との米ニューメキシコ州のリチャードソン知事の説得に応じることで、米国に貸しをつくることが得策と判断した。北朝鮮はリチャードソン知事に@IAEA職員によるウラン濃縮工場への査察受け入れA未使用燃料棒の海外搬出などの受け入れを表明することで、米国にラブコールを送ると共に日米韓に6か国協議の早期再開を要請する中国を後押しをした。

 E今回は自制することで、次回の行動を正当化できると判断した。北朝鮮が自制し、核問題の平和的解決のための提案をしたにもかかわらず、オバマ政権が交渉に応じない場合の核実験やミサイル発射実験の大義名分にすることができる。

 F黄海周辺にイージス艦や駆逐艦など艦船10隻を動員し、さらにF-15戦闘機まで空中待機させて実施した韓国の射撃訓練に怖気づいた。

 本当の理由は何なのか?こればかりは、金正日総書記のみぞ知るということだろう。