2010年1月29日(金)

朝鮮半島西部戦線に異常あり

 北朝鮮が27、28日と連日、海上の軍事境界線と言われている北方限界ライン(NLL)に向けて沿岸砲を発射している。いずれも、NLLの北朝鮮側海域に着弾しているので衝突にはいたっていないが、27日は韓国側が実効支配しているペクリョン島付近に100発以上、28日も延坪(ヨンピョン)島付近にめがけて十数発発射されていた。

 北朝鮮の砲弾は、射程距離12kmの海岸砲と45kmの170mm自走砲、さらに射程距離60kmの240mm放射砲(多連装ロケット)だが、万に一つ、NLLの韓国側海域に着弾したり、あるいは韓国の艦船に被弾するようなことになれば、大変なことになる。韓国側が「報復」を宣言しているからだ。

 韓国は現在、軍のマニュアルに従い、北朝鮮の沿岸砲に対しては警告の意味で20mmバルカン砲(射程距離4km)を北朝鮮側の上空に向けて発射しているが、仮に韓国側領海に着弾した場合は、ペクリョン島に配備してある90mm海岸砲と4.2インチ迫撃砲、それに射程距離40kmのK−9自走砲でNLLの北朝鮮側海域に向け応射することにしている。砲弾の数も2〜3倍にして返すそうだ。

 また万一、艦船に直撃し、被害を被った場合は、北朝鮮の発射地点に照準を定め「報復砲撃」を行うことにしている。ペクリョン島とヨンピョン島には射程距離130kmのハープーン・ミサイルが配備されているので北朝鮮の地上砲基地を攻撃することもできる。NLL以南20kmに待機している駆逐艦に搭載されているハープーン・ミサイルで叩くことも可能だ。

 仮に本格的な衝突となれば、韓国軍はこれを事実上、全面戦直前段階とみなし、総反撃に出ることにしているようだ。

 北朝鮮は沿岸砲を発射する前の日(26日)にミグ戦闘機10機がペクリョン島付近まで飛来してきたが、韓国軍は戦術措置ライン(TAL)を越えた場合は、F−16戦闘機を発進することにしている。偶発的な衝突も怖い。

 北朝鮮人民軍は昨年4月27日、板門店代表部が声明を通じ、「休戦協定の拘束を受けない」「ペクリョン島など黄海5島周辺における船舶の安全を保証できない」と主張していた。また、11月13日には3日前の衝突で敗北した南北艦艇交戦に関連し、「黄海にはわれわれが設定した海上軍事分界線だけがある」と主張し、「独自に設定した海上軍事境界線を守るために今後は無慈悲な軍事的措置を取る」と警告していた。

 休戦協定を平和協定に変えるための戦術なのか、それとも軍の士気を高めるための軍事訓練の一環なのか、あるいは本気でNLLの変更、5島奪還を目指そうとしているのか、朝鮮戦争勃発60周年にあたる6月25日までは目が離せない。