2011年8月12日(金)

NLLでの砲撃事件から見えたもの

 延坪島海域付近で10日に起きた「砲撃事件」について北朝鮮側は昨日、北方限界線(NLL)に近い黄海南道で大型建設事業に伴う発破作業を韓国側は「誤認し、騒いでいる」と、韓国側の対応を批判していた。これに対して、韓国側は「北朝鮮側の主張はいつもの常套手段で、コメントする価値もない」と切り捨てた。

 以前にも同様のことが起きたことがあった。この種の南北の主張はいつも、正反対だ。明らかなことは、どっちかが嘘を付いていることだ。

 韓国側の発表では、この日、NLLに向けての北朝鮮側からの砲撃は二度あった。一度目は、10日午後1時ころで、計3発。そのうち1発がNLLを越えて韓国側領海に着弾した。

 二度目は、6時間後の午後7時46分頃で、この時は1発少ない2発で、やはりその内の1発がNLL越えしている。結局のところ、北朝鮮は計5発を発射し、そのうち2発が韓国側海域に着弾したとされている。

 前者の場合は、午後1時という時間帯から、「建設作業中の発破を韓国側が聞き間違えた」との北朝鮮側の主張は、もしかするとそれもあり得るかなと、思わせることもできるかもしれないが、二度目は、夜の8時近くに発生しているので常識的に考えてこの時間帯での作業中の発破はどう考えても解せない。北朝鮮側の主張には無理があるというもの。

 それと、韓国軍の対応にも不自然なところがある。

 韓国合同参謀部の発表では、最初の砲撃では砲弾1発が、NLLを越え韓国側の領海に着弾したと判断したとのことだが、当日の黄海の視界は1kmが限界で、NLLを越え、どこに着弾したのか、識別は不可能だったと言われている。これに対して韓国軍当局は30km離れた砲声を探知できる音響探知装置によってNLLを越えたことが確認できたとしている。

 二度目の夜の砲撃も同様に音響探知装置によって、2発の砲弾のうち1発がNLLを飛び越え、着弾したとの判断を下している。しかし、証拠となる音響探知装置によってキャッチされた音波は軍事機密上、公開はできないとのことだ。

 韓国軍は交戦マニュアルに従い、一回目では国際商船通信網を通じて北朝鮮側に「相応の対応をするが、事態に対するすべての責任は、北側にあることを明らかにしておく」と警告したうえで午後2時頃にK9自主砲で3発お返ししたとのことだ。また二度目は、16分後の8時2分にNLLに向けて同じく3発発射している。一度目の3発に対して3発なのは合点が付くが、二度目は2発なのになぜ1発多い3発なのかについての説明はない。また、韓国側が応射した6発のうち何発が北朝鮮の領海に着弾したのか、これまた発表はない。

 また、最初の砲撃に即時応戦しなかった理由については現場がNLLを越えたかどうか、即時に判断できず、最終判断までに時間がかかったこと、韓国の艦艇や船舶に加えられた脅威でなかったことなどを挙げているが、それにしても、「そっちが先に撃ったので、こっちもお返しますよ」と断って応射するのも緊張感のない話だ。

 確か、昨年3月に発生した哨戒艦沈没事件後韓国軍は「一発撃ったら、10発、100発でお返しする」と北朝鮮に警告を発していたはずだ。ならば、3発ではなく、30発、300発でお返ししなければならない。

 さらに、哨戒艦沈没事件後に国防相に就任した金寛鎮(キム・グァンジン)国防長官は就任の挨拶で「北朝鮮が追加挑発すれば、自衛権の次元から航空機を利用し、(砲撃基地を)爆撃する」と勇ましいことを口にして。さらに昨年11月に発生した延坪島砲撃事件後に韓国放送記者クラブが主催したTV討論会では「北朝鮮が挑発すれば、自衛権の次元で断固対応し、挑発の原点だけでなく、そこを支援する勢力まで(懲罰)含むことになる」とラッパを吹いていた。

 それだけではない。韓国軍は哨戒艦沈没事件後、北朝鮮が放送の再開を嫌っている対北向け拡声器を秘かに11か所に設置していた。金国防相が「拡声器による非難宣伝の再開も検討する」と言ったからだ。しかし、未だに再開されてない。

 北朝鮮もまた延坪島付近での韓国軍の射撃訓練や韓国側の対北ビラ散布には再三にわたって「物理的打撃を加える」と宣言していたが、何度も射撃訓練やビラがばらまかれているのにこれまた未だに行動に移していない。お互いにおっかなびっくりで向き合っているのが、昔も今も変わらぬ朝鮮半島の風景であり、今の朝鮮半島の現実だ。

 本気にならず、口喧嘩だけならば、これはこれでよしとするほかないだろう。