2011年4月21日(水)

北朝鮮による「邦人拘束事件」を考える

 日本人2人が北朝鮮で身柄を拘束されている。

 新聞報道では、拘束されているのは30代と40代の男性2人で、機械メンテナンス会社の社員であること、2人は北朝鮮の経済特区の羅先にある食品加工会社からメンテナンスの依頼を受け3月上旬にもう一人の男性と3人で中国吉林省琿春市から羅先市に入ったこと、工場で加工した缶詰を中国に輸出する際、麻薬を紛れ混ませた疑いで3月中旬に拘束されたこと、もう一人の男性は直ぐに釈放され、すでに日本に帰国していること、さらにこの件については北朝鮮当局から日本に非公式に通告があったことなどが明らかにされている。

 昨日の記者会見でこの件を質問された枝野幸男官房長官は「事案の性質上、コメントを差し控えたい」と口を閉ざし、また北朝鮮も依然沈黙を保ったままなので、これ以上のことは何一つわかってない。

 一説では、北朝鮮は多額の保釈金を要求しているとのことだが、過去の事例からしてそれも十分にあり得ることだ。

 それにしてもおかしなことだ。

 第一に、日本は現在、北朝鮮に制裁を科している最中にある。北朝鮮との貿易は全面禁止で、経済協力も規制している。個人であっても、北朝鮮でのビジネスはご法度である。従って、羅先にある食品加工会社が日本から進出したとはとても考えにくい。おそらく、羅先に進出した中国の会社か、中朝合弁会社のどちらかだろうが、どちらの依頼にせよ、北朝鮮でのビジネスは、事前に通産省に届け出なければならない。まして、北朝鮮渡航は自粛を要請されているのである。

 第二に、3人のうち、一人は直ぐに釈放され、帰国を許されたことだ。容疑不十分、あるいは無関係ということならば考えられないことではないが、仮に麻薬密輸容疑が事実無根ならば、北朝鮮にとっては関係者を国外に出してしまうのは得策ではないはず。

 第三に、3月初旬に工場に入って、直ぐに麻薬の密輸を試みるとは大胆不敵というか、とても素人、初心者の成せる業ではない。まして、北朝鮮では初犯だからといって執行猶予は付かない。重労働の重刑が待ち受けている。仮に北朝鮮をすり抜けても、中国で摘発されれば、それこそ極刑、死刑に処せられる恐れがある。出来心でやったとか、軽い気持ちでやったとか、あるいは北朝鮮関係者から依頼されて仕方なくやった可能性も否定できないが、背後に何がしのシンジケートでもあるのだろうか。

 北朝鮮当局は多額の保釈金を要求しているとのことだが、常習犯であれ、初犯であれ、本当に犯罪を犯したならば保釈金を出すのは考えものだ。まして万が一北朝鮮当局が「身代金」を欲しさに、容疑をでっち上げたならば、なおさらのことである。

 北朝鮮が保釈金を要求するのは、過去にも何度か、政府が容疑者に代わって、「保釈金」を出したことから、慣習となってしまったようだ。

 入ってはならない「禁断の地」に入って、悪事を働いたなら、それは自業自得というもの。何も血税を投じることはない。それでなくても、今、日本は東日本大震災の復興でお金がいくらあっても足りないぐらいだ。

 過去の前例として、2003年に同じ容疑で身柄を拘束された男性は6年近く、北朝鮮に抑留されていた。日本政府が保釈金を出さなければ、二人はその程度は覚悟しなければならないだろう。

 中国の友人曰く、「北朝鮮では麻薬密輸では死刑に処せられないだけましというもの。中国でなく、北朝鮮で拘束されて良かったのでは」