2011年7月28日(木)

管総理の訪朝は100%あり得ない

 中井洽元拉致問題担当相の中国・長春での宋日昊(ソン・イルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使との極秘接触が各方面に波紋を広げているようだ。交渉人が外務省や政府関係者でないこと、また早期退陣表明している管直人首相が主導したことで野党からだけでなく与党の中からも「二元外交」「延命策」との批判の声が噴出している。

 中井氏の今回の単独行動には管首相の意向が働いていたとの見方が一般的だが、中には「菅首相が水面下で北朝鮮訪問を画策しているのでは」と伝えているメディアもある。

 管総理が電撃訪朝により一気に支持率を上げ、政権を浮揚させた小泉純一郎元総理の手法に倣って「柳の下の二匹目のどじょう」を狙っているというのがその根拠のようだが、どう転んでもあり得ない話だ。

 この「サプライズ訪朝説」については、中井・宋極秘接触が明るみに出る前の7月19日にJ−CASTからの問い合わせに三つの理由を挙げその可能性を否定した。

 一つ目は、外的環境が整ってないことだ。米朝関係も、南北関係も完全修復には至ってない段階で日本が突出することはできないという意味だ。

 二つ目は、レームダック化した政権を北朝鮮が相手にしないということだ。福田政権下で2008年に約束した拉致被害者の安否調査を北朝鮮が今日まで履行しないのも、麻生、鳩山、管と政権が一年事に交代する日本の国内事情にも理由があるのは否めない事実だ。早晩退陣する管総理を相手にするほど、金正日総書記も愚かではないだろう。

 三つ目は、管政権には金総書記に直結する太いパイプがないことだ。今回も、宋日昊大使止まりだ。政治家でなくても会うことのできる宋大使を窓口にした電撃訪朝は無理というもの。金総書記と直接パイプのある「ミスターX」を仲介とした小泉政権の時とは大違いだ。

 これら以外にも理由がある。それは、北朝鮮が管政権を全く評価していないことだ。自民党から民主党政権になっても、対北朝鮮政策に変更が見られないどころか、むしろ後退していると、映っていることにある。

 具体的な例を幾つか挙げてみよう。

 昨年6月に管直人政権が発足してから@金賢姫元工作員を来日させたこと、A朝鮮学校への無償化をしないこと、B韓国への謝罪に言及した日韓併合100周年の総理談話から北朝鮮を除外したこと、C在北被爆者への広島医師団の治療のための訪朝を不許可にしたこと、C延坪島砲撃事件の際には国連安保理で先頭に立って北朝鮮非難に走り回ったこと、D日朝合意の取り決めである制裁を緩和せず、制裁をさらに1年間自動延長させたこと、E朝鮮半島有事の際に北朝鮮による拉致被害者の救出のための自衛隊派遣に言及したこと、F外務省のホームページに掲載された東日本大震災へのお見舞いと義援金を寄せた世界各国のリストから唯一北朝鮮だけを除外したことなどがある。

 特にBについては宋日昊大使自身が昨年8月13日、平壌での共同通信との会見で「謝罪すべき内容が盛り込まれておらず、すべての朝鮮人民に失望感を与えた」として強い不満を表明していた。

 以上のような理由だけでなく、管総理が金総書記には会えない決定的な理由がある。それは、管総理本人はとっくに忘れているかもしれないが、野党党首時代に「北朝鮮のあの銅像(金日成銅像)が倒れる日が来ると信じている」と発言していたことだ。

 レーニンの銅像か、サダム・フセインの銅像が引きずり倒されるのを例にとっての北朝鮮に関するコメントだ。一体どのような顔をして、「倒されるのを願っていた」その銅像の息子と会うつもりなのだろうか? 

 「行儀の悪い男」とか、「ならず者」と金総書記を酷評したあのブッシュ大統領ですら、北朝鮮から散々罵倒されている李明博大統領ですらさすがにそこまでは口にしなかったことを考えると、管総理は指導者としてあまりにも思慮がなさすぎる。

 「訪朝説」については管総理自身も「まったくの事実無根だ」と言っているようだが、「まったくの事実無根」と言いたいのは、むしろ金総書記のほうかもしれない。