2012年2月9日(木)

気になる拉致担当者二人の発言

 拉致問題で気になる二人の発言があった。

 一人は、拉致問題担当大臣の松原仁さんの7日の参院予算委員会での発言だ。北朝鮮が2008年8月の日朝合意に基づいて拉致被害者の再調査に着手したとしても、「私としてはこの段階でそれをもって、(制裁)解除の条件にすべきではないと思っている」と述べたそうだ。

 自民党政権下で交わされた日朝合意には「北朝鮮側が今後、再調査を開始することと同時に、日本側も人的往来の規制解除及び航空チャーター便の規制解除を実施することになっている。

 この合意を苦労してまとめた斉木昭隆外務省アジア太平洋州局長(当時)は「日本側がとる措置、北朝鮮がとる措置、言葉対言葉の約束段階から行動対行動の段階に移るということで、向こうが一歩踏み出せば日本も一歩踏み出すと。小さな一歩に対しては小さな一歩を、大きな一歩に対しては大きな一歩ということだ。先方がもう一回調査をやると言っていることは一歩前に進んだと認識している。今度それを具体的行動に移していくことに応じて、日本側も約束した二つの措置について同じタイミングで実行に移すということを確認した」と国会で述べていた。

 松原大臣は大臣就任後の1月21日の報道各社のインタビューでも北朝鮮に対する経済制裁について「強めることはあっても今は弱めるべきでない」としたうえで安否不明者の再調査の開始だけでは制裁を緩和する要件にはならないと述べていた。

 過去の言動からして、当然予想されていたことで、何ら驚くべきことではない。福田政権が交わしたこの日朝合意を松原さんは「北朝鮮は再調査すると言っているようだが、言葉の遊びだ」と当初から相手にしてなかったわけだから当然だ。

 もう一人は、元拉致問題担当大臣の中井洽さんの発言だ。

 同じ日に国会内で開かれた北朝鮮の人権問題に関する集会で中井さんは「拉致問題と同時に人道問題を世界にアピールし、北朝鮮の体制の崩壊を求めていきたい」と発言したそうだ。

 中井さんと言えば、確か昨年7月、今年1月と二度にわたって北朝鮮の対日担当実務責任者である宋日昊氏と中国で談判していた政治家である。

 秘密交渉でどのようなやりとりがあったのかわからないが、日本に帰国した途端「北朝鮮の体制の崩壊を求めていきたい」と言ったならば、カンターパートーナの宋日昊氏はこの発言をどう受け止めることだろう。本心で金正恩体制の崩壊を望んでいるならば打倒対象である体制の使者とそもそも会うべきではなかった。秘密会談がうまくいかなかった腹いせで口走ったとしてもそれは外交信義に関わるだけに問題だ。

 日本の交渉相手は残念ながら昔も今も、宋日昊氏である。彼と渡りを付けなければ、日朝交渉は前には進まないのが現状だ。