2012年1月11日(水)

二度目の「中井・宋会談」で拉致問題が進展?

 民主党の中井洽元拉致問題担当相がまた訪中し、9、10日にかけて北朝鮮の対日担当の宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使と会談したようだ。昨年7月の「長春会談」以来半年ぶり2度目ということもあって大いに期待を持たれているようだが、今後の進展を占うポイントは二つある。

 一つは、今回も極秘会談に中井氏がどのような立場、資格で会ったのかということだ。言わば、総理の「密使」としてか、あるいは「個人」としてかにかかっている。

 前回も、今回も、一応政府は関与を否定している。

 前回は、枝野幸男官房長官が「政府への連絡は特にない。事実関係自体、承知していない」と説明していた。同じように今回もまた、藤村官房長官が「一民主党議員の海外活動と理解している。政府として何か説明する立場ではない」と述べ、政府は関与していないことを明らかにしていた。

 では党はどうか、前回の会談では岡田克也幹事長は「本来、外交は政府が一元化して行うべきだ。二元化すれば、相手に乗じられ、スキを与えることになる」と突き放すようなコメントをしていた。

 今回も、前原政調会長が「政府が聞いていないと、あるいはそれについては責任を持てないということになれば、結果として良かれと思ってやっていたことが、全体として両国の信頼関係を損ねてしまうと」と冷めた見方をしていた。

 それでは、拉致問題担当相を務めていた2010年9月までの1年間、北朝鮮が最も嫌う黄長Y元労働党書記や大韓航空機爆破事件の金賢姫元工作員を日本に招請し、また北朝鮮女子サッカーチームの入国問題や朝鮮学校への授業料無償化問題で異議を唱えてきた「北朝鮮敵視政策」の張本人とみなす人物に宋日昊氏がそう簡単に会いに出てくるだろうか?前回の管総理と同様に今回も野田総理の「暗黙の了解」どころか、何らかの意向が働いたとみるのが筋だろう。

 もう一つのポイントはどちらが二回目の会談を働きかけたかによって今後進展するかどうかをある程度占うことができる。

 民主党政権になって北朝鮮側からの働き掛けはこれまで一度もなかった。数回会った接触はどれも民主党側からだった。

 民主党の川上義博参参議員の一昨年5月の訪朝も日本側からの要請によるものだった。川上議員は面会した金永日(キム・ヨンイル)党国際部長に対して福田政権下で交わした日朝合意(安否不明者の再調査と制裁の一部緩和)の履行を促したこともはや秘密でもなんでもない。

 今回も例にもれず、中井氏側からの要請によって実現したものとみられる。

 会談が10日までの二日間にわたって行われたことから相当突っ込んだ話し合いがあったのではと推察されているが、日本政府が金正日総書記の死去にあたり弔意を表さなかったことや、北朝鮮の国会議員であることを理由に朝鮮総連責任議長らの弔問(日本への再入国)を認めなかったことに反発していたこともあって、初日は、中井氏は北朝鮮の批判を聞く羽目になったのではないかと推察される。

 確か、北朝鮮は野田総理を「人間の初歩的な倫理や道徳、礼儀も持ち合わせない者が権力の座にしがみつき、日本の国事を扱っているのは、日本自体にとっても悲劇だ」と罵り、日本政府が取った行為を「傷口に塩を塗るような振る舞いで、敵対的立場をさらけだした」と批判していた。

 北朝鮮の新体制の出方を待っていたところ、拉致問題については「もはや存在もしないし、においもしない」と言われ、慌てて、北朝鮮側に会談を申し入れたと言うのが真相だろう。

 拉致問題の進展を期待している野田政権に対して「朝日関係の展望はますます暗いものになった」と出鼻を挫かれたので、ここはなんとかと繋いでおかないと、中井氏の出番となったのではないだろうか?

 野田総理は「すべての拉致被害者の一刻も早い帰国を実現するため政府一丸となって取り組む」と決意表明をしてきた。

 動機、理由はどうであれ、この機会を捉え、日朝交渉が再開されれば良いのだが、野田総理は中井氏にどのような親書を手渡したのだろうか?