2013年5月20日(月)

飯島訪朝を検証する

 電撃訪朝していた飯島勲内閣参与が3泊4日の滞在を終え、18日に帰国した。

 飯島氏の訪朝には関係者の誰もが口を閉ざしていることで、様々な憶測が流れているが、幾つか浮かび上がってきた「事実」がある。

 一つは、飯島氏の訪朝は、個人的な訪問ではなく、事実上、安部内閣が拉致問題を解決するため平壌に派遣したことだ。帰国後、飯島氏が、管官房長官に報告し、安部総理も「必要ならば、会って話を聞く」とコメントしたことからも明らかだ。

 次に、飯島氏が安部総理の事実上の「特使」として訪朝した可能性が高いことだ。「特使」であるがゆえに、「重大な使命を担ってやってきた」からこそ憲法上の国家元首である金永南最高人民会議常任委員長が面談に応じたのだろう。

 第三に、特使ならば、口頭であれ、文書であれ、北朝鮮の最高指導者、即ち金正恩国防第一委員長宛てに総理のメッセージを伝えるのが、外交上の慣例である。安部総理のメッセージ(親書)を持参して来たからこそ、金常任委員長も表敬訪問に応じたのだろう。

 首相官邸は、親書については否定しているようだが、「親書を渡した」とは口が裂けても言うはずはない。ちなみに小泉政権下で官房長官をしていた頃、安部総理は自身の秘書官を極秘に平壌に派遣したことがあったが、その時も、親書らしきものを渡していた。仮に、飯島氏が安倍総理の親書を持参し、金英日党書記もしくは金英南委員長に手渡したなら、金正恩国防第一委員長の安倍総理宛の返書を伝達された可能性もゼロではない。

 第四に、飯島氏の訪問が隠密だったのか、どうかだが、飯島氏は北京空港から北朝鮮の航空機に搭乗し、平壌入りしている。同じ便には北朝鮮を訪問する在日朝鮮人らが多数乗っていた。その多くが、小泉元総理の秘書を長年務めていた飯島氏の顔を知っている。誰にも気づかれず、乗り込むのは、不可能に近い。

 今回の訪朝を極秘扱いにするなら、官房機密費を使ってでも、チャーター便で入るか、あるいは、シンガポールや、モンゴルなど金永日党書記や宋日昊朝国交交渉担当大使らと第3国で接触すれば、公にされることはなかったはずだ。最初から公式訪問で合意ができていたのではないだろうか。

 第五に、北朝鮮は飯島訪朝を公式訪問扱いにしたからこそ、到着した瞬間から飯島氏の平壌での動静をメディアで逐次報道したのだろう。

 昨年、米国からは元バスケット選手のテッド・ロッドマン氏や、グーグル会長一行らが訪朝したが、飯島氏同様に到着瞬間から大々的に報道され、連日動静を伝える写真や映像が配信されていた。従って、飯島氏の関連報道は、「異例」でもない。

 今後の展望だが、飯島氏は「本音の話ができた」と北京空港で語っている。金英日書記や宋日昊大使らと相当突っ込んだ話をやったのだろう。

 日本の最大関心事の拉致問題についても本音で話し合ったものと推定される。北朝鮮が高く評価している」(金永南委員長)飯島氏に期待をかけている手ぶらで帰すことはないだろう。北朝鮮による安否不明者の再調査や生存者の全員帰国について確約した可能性がある。

 今後、日朝公式協議が再開され、拉致問題が進展し、日朝首脳会談にまで発展するかどうかは、それぞれ報告を受けた安部総理と金国防第一委員長の政治決断にかかっているが、当面は、北朝鮮が前提条件として提示した朝鮮総連の本部売却問題を日本政府がどう「裁定」するかにかかっている。

 朝鮮総連本部は数か月後に再度競売に掛けられるが、仮に整理回収機構(RCC)が競売を取り下げるか、総連系企業による入札を認めることになれば、日朝は大きく動くだろう。