2008年12月18日(木)

官房長官の拉致問題での「回答」

 政府が主導した北朝鮮人権侵害問題啓発週間(12月10ー16日)のキャンペーンが終わった。政府認定の12人の拉致被害者の顔写真が車体にプリントされた大型広報車が市内を走り回っていたところを何度か見た。「必ず救い出す」「一日も早く全員を取り戻す」とのスローガンに日本政府の決意が込められていることは重々理解できた。

 昨晩、多忙の中、河村建夫官房長官が駐日外国人特派員協会に出席し、日本政府の内外政策について語った。当然、外交政策の要として、北朝鮮の核問題、拉致の問題についても触れていた。

 拉致問題では、北朝鮮に再調査を速やかに開始させるよう現在も粘り強く呼びかけていることなどが説明された。

 言うまでもなく、日本政府の立場、見解は「死亡した」と北朝鮮が発表した8名を含め拉致被害者12名が「未だ北朝鮮に取り残されており、一日も早く救出しなければならない」と一貫している。当然の論理の帰結だ。

 そこで、外国人記者の誰もが聞きたがっている質問をあえて官房長官にぶつけてみた。

 「日本政府は拉致被害者を救出するため韓国を含む国際社会への協力を要請している。当然のことだが、拉致被害者が生存してなければ、救出はできない話だ。そこで、質問だが、日本政府は北朝鮮が『死亡した』と通告した横田めぐみさんら8名が間違いなく生存しているとの確証をお持ちなのか、『死亡した』可能性は全くないと受け止めてもよいのか」

 拉致問題の担当大臣である官房長官に期待した答えは、「断固とした確証がある」あるいは「絶対的な自信がある」というものだったが、官房長官の答えは「横田めぐみさんのものと出された「遺骨」が偽物だった。「『死亡した』との確固たる証拠がない以上、我々としては、生存としているとみて、救出に全力を挙げる」というものだった。

 「死亡した」確証がないことが「生存」の証であると言うことのようだが、あまりにも消極的で、受身的だ。ありとあらゆる手段を使ってでも確固たる生存情報を掴むようもっと日本政府は全力を挙げるべきではないかと思った。

 「遺骨」について言うならば、今もって、北朝鮮との間で「偽物」「本物」の綱引きが行なわれている。これが、また拉致問題が今日まで進展しない要因の一つになっている。

 官房長官は韓国との外交懸案である「竹島」の領有権について外国人記者に聞かれた際に「国際司法裁判所の判断を仰ぎたいとも思っている」と答えていたが、ならば、この「遺骨問題」も、国際機関や6か国協議参加国の米中ロ韓4か国に再度鑑定を委ねて、白黒を付けたらどうかと思う。

 政府の見解は、「第三国、第三機関にもう一度やったらどうかということだが、北朝鮮が不誠実な対応を早く改めることが重要で、DNA論争に入っていくと肝心の主張がぼやけてくる。さらに、これからどこかの外国の機関に委託して、再鑑定をやる考えは今のところない」(町村信孝外相の国会答弁 2005年2月23日)というものだが、権威のある英国科学雑誌「ネイチャー」や「タイム」や「ヘラルド・トリビューヌ」などの米メディア、あるいは韓国や日本の法医学者からも帝京大学の先生が行なった鑑定にクレームが付けられている以上、国際機関に委ね、「明らかに偽物である」と鑑定させれば、決着が着く問題だと思う。

 幸いに、鑑定を帝京大学などに依頼した警察庁も「一般論として言うならば、こういった鑑定に際しては鑑定の客観性を確保するために可能な範囲で再鑑定のための考慮というものが払われているものである」(瀬川勝久警察庁警備局長:05年2月23日)との見解を示していたので、政府がその気になれば、再鑑定は可能である。