2008年5月29日(火)
横田めぐみさんに関する地村富貴恵さんの証言
読売新聞(5月9日付)に続いて今度は毎日新聞が拉害被害者の横田めぐみさんの記事を同じように朝刊一面トップに掲載していた。
昨日(5月26日)付の毎日新聞は、横田めぐみさんについて帰国した拉致被害者の地村富貴恵さんが昨年末に日本の当局に対して「『94年6月に自分たちの隣に引っ越してきた』」と証言していた」と伝えていた。これが事実ならば「94年4月に死亡した」との北朝鮮側の説明は完全に覆えるので、スクープとして一面トップは頷ける。
同紙によると、めぐみさんは94年6月、地村夫妻が住む招待所の隣に「1人で引っ越してきて、数カ月そこに暮らしていたが、その後の行方は分からなった」(地村富貴恵さん)とのこと。また、当時のめぐみさんの状況について富貴恵さんは「かなりうつ状態が激しく、精神的に不安定な状態だった。北朝鮮の対外情報調査部幹部が看病していた」と証言したそうだ。
ところが、この「毎日」の報道について町村信孝官房長官は「政府として本人(地村富貴恵さん)から聴取をした事実はない。地村富貴恵さん本人にも確認したが、否定された。相当の意図をもって記事を作っているとしか思えないので、まことに不愉快であり、遺憾だ」と全面否定していた。「拉致問題担当の中山恭子首相補佐官が先月(4月)25日、ソウルを訪問した際に拉致被害者の横田めぐみさんの両親が孫のヘギョンさんとめぐみさんの夫と韓国内で対面できるよう韓国政府に仲介を要請した」との「読売」の報道(5月9日)の時と同じように全面否定に出た。
「横田めぐみさん生存」の立場に立つ政府とすれば、「生存説」の裏づけとなる「毎日」の報道は本来ならば「援護射撃」になるわけで、仮に誤報であったとしても目くじらを立てて反発する性質のものではないはず。にもかかわらず町村長官が「読売」の時と同様に「毎日」に噛み付いたのは、おそらく二つの理由からだと推測される。
一つは、温存していた「有力証言」が明るみに出たことで、北朝鮮側に事前に修正する機会を与えてしまったからではないだろうか。北朝鮮が仮に再調査に応じた場合、再調査の結果として「94年6月以降に死亡した」と訂正してくれば、政府としてはどうにも対応できなくなるからだ。実際に北朝鮮は小泉総理訪朝の際に「93年3月に自殺した」と説明しておきながら、蓮池さんの「(めぐみさんを)94年まで目撃していた」との証言が日本から伝わるや04年の再調査の際には一転して「勘違いしていた。死亡したのは94年4月だ」と訂正してきた。今度も、同じように利用されかねないと憂慮したのかもしれない。
もう一つは、その一方で「かなりうつ状態が激しく、精神的に不安定な状態だった」との富貴恵さんの証言が、北朝鮮の「自殺説」を補強することになりかねないと懸念したのかもしれない。
めぐみさんをめぐっては、「93年春頃から夫と不仲で別居していた。94年3月に精神科病院に入院する準備を手伝った」との蓮池薫さんの証言もある。従って、地村富貴恵さんの証言が事実ならば、めぐみさんが精神的に煩って、一時的にせよ病院に入院していたことが裏付けられるわけで「めぐみさんのカルテが確認できない」ことを理由に「入院説」を認めていない政府の立場は弱まることになりかねない。
いずれにしても、この地村富貴恵さんの証言が事実ならば、めぐみさんの夫、金英男さんが06年7月に平壌で日本の記者団に語った「めぐみはうつ病になり、94年4月に病院で自殺した」との証言は「虚実の証言」ということになる。
町村官房長官の言うように大手二紙の一面トップ記事がいずれも「誤報」ならば、これは大変な問題だ。読者に対する「背信行為」にあたる。嘘の記事を読まされる読者はたまったものではない。
一度ならず二度も町村官房長官から「相当の意図をもって記事を作っている」「まさに作り事の記事」とまで言われた「毎日」と「読売」は自らのメディアの権威を賭けて、どちらが正しいのか、白黒を付けるべきだ。