「次回交渉は自然に決まる」
衆議院外務委員会(2002年11月1日)
日本人拉致問題は2002年11月1日、衆議院外務委員会で審議された。
政府側答弁は川口順子外務大臣、茂木敏充外務副長官、安倍晋三官房副長官、田中均外務省アジア太平洋州局長、齋木昭隆外務省参事官。(2002年当時の肩書)
●「中断して困るのは北朝鮮」
△藤島正之議員(自由党)
――クアラルンプ−ルでの日朝交渉では鈴木大使は波長が会わなかったと言っているが相手(鄭泰和大使)は原則論を繰り返すばかりで、当事者能力が欠如していたのでは?
川口外相:相手の方の個人の能力の問題ではなく、政府の方針だったのだろう。
――平壌宣言をみると、経済の関係のことを詳しく書いてあって、拉致という言葉もない。これが今回の交渉にあたって足かせとなっている。北朝鮮は経済を先に話し合うべきだと言っているが、この点については?
茂木副大臣:平壌宣言に書いてある項目そのものが優先順位を表すものではない。
――今回交渉が中断して困るのは北朝鮮であって、日本ではない。外務大臣の認識は?
川口外相:そのような認識は当然ある。
――北朝鮮に5人を返すという約束をしたのか?
田中局長:1〜2週間ということで日程を調整したことは事実だが、北朝鮮が約束云々というのは当たらないと思う。
――毅然とした態度で交渉するのは良いが、このような状態が続くと困るのは被害者の家族だ。次回の国交正常化交渉を待たずさまざまなチャネルを通じて進めるよう努力すると言っているが、どのようなチャネルがあるのか?
茂木副大臣:中国の北京大使館などいろいろなものが考えられる。有効なもの、有用なものはみな使っていく。
△上田勇議員(公明党)
――北朝鮮の核問題は我が国にとって重大な脅威である。国交交渉ではこの問題を切り離すことはできない。政府の見解は?
茂木副大臣:北朝鮮は、究極的な解決は米国との協議によってのみ可能であると言いながらも、平壌宣言を遵守するとも言っている。従って、その結果も踏まえて、日朝安全保障協議を11月中に立ち上げることで合意したわけだ。国交正常化本交渉の中でも取り上げるが、この安全保障協議の場で話し合っていく。
△小池百合子議員(保守党)
――新聞に毎日、小泉日誌が載っているが、10月30日の午後4時5分、「首相会議室へ。田中均局長、溝口善兵衛財務省国際局長、西藤久三農水省総合食料局長ら。」ということで、約1時間にわたって会議している。北朝鮮への経済協力や食糧支援などについても話し合われたのか?
田中局長:総理のカンボジアでのASEANプラス3、日中韓会議出席のためのブリ−フィングで、北朝鮮の話は一切ない。
――田中局長は拉致被害者5名を北朝鮮へ戻さないと大変なことになると発言した、と伝えられているが、どういう意味なのか?
田中局長:どこの場であれ、そんなことを言った覚えはない。
――被害者の家族の方々、そしてある意味ではご本人も含めて基本的には微動だにしない、また時間がかかるということ、これについてはもうお腹のなかにすとんと落ちている状態なので、次回交渉については、日本側から何月何日にやろうと働きかける必要はないのでは?
斎木参事官:先方は拉致問題についてきれいに片づけたいと言っていた。他方、そうは言いつつも、5人のお子さんらを今後の交渉のカ−ドに使おうと考えているとすれば、それは全くの読み誤りであるということを今回の交渉を通じて先方は十分に認識したのではないかと思っている。従って、次回の交渉についてはまだ日程は全く定まっていないが、先方が是非、誠意を持って建設的に対応することが交渉全体の進展に資するゆえんであると強く考えている。
●「返すと約束した覚えはない」
△伊藤英成議員(民主党)
――北朝鮮はなぜ日本政府が約束を破ったと言っているのか、外相にもう一度聞きたい。
川口外相:今回の生存者5名については、できるだけ早期に帰国させたいということで北朝鮮に働きかけた。先方との間では、滞在期間を一、二週間とすることで打ち合わせたというか、調整した経緯がある。北朝鮮は約束をしたと言っているが、これは、両国が、そういう言葉があったかなかったかということではなくて、我々としてはそういうことで調整をしたということだ。
――5名と、その子供ら、これからどういうふうにされる予定か?
川口外相:日本政府としては譲ることはできない。それが可能になるように北朝鮮に対する働きかけを強く行っていく。次回の交渉までに可能なチャネルを動員して働きかけていくつもりだ。
――死亡されたとされる8名の拉致被害者については疑問点など100点以上、北朝鮮側に質問されたようだが、いつ頃回答が出されるのか?
田中局長:文書の形で質問状、追加的な照会事項を手渡した。北朝鮮側は関係機関と協議をしつつ、可能な限り速やかに回答できるよう努力すると言っていた。期限はいつまでとはなってない。出来るかぎり早く回答が得られ、その後の必要に応じた調査団の派遣につながるよう最大限の努力を払いたい。
――第2次調査団をいつ頃派遣するのか?北朝鮮が拒否したとも聞いているが...派遣した場合の調査対象は8名なのか、あるいは数十名行方不明者がいると伝えられているが、その人らも対象に含まれるのか?
田中局長:派遣の時期と具体的な内容についてはまだ固まったものはない。調査団の問題については、先方から受け入れるとか、受け入れないとか、まだ反応はない。8名以外の方々については、警察当局とよく連携を保ちながらやっていく。
――安倍副長官に伺うのだが、9月17日に日朝首脳会談があったが、例えば、小泉総理と金正日総書記との間にホットラインがあるのか?金総書記は現実的な判断をすると聞いているが、本当に正しい情報が本人に上がっているのかどうか疑わしいという話も伺っている。ちゃんとした情報が本人に上がっているかどうか、これは非常に重要なことだ。
安倍副長官:ホットラインは今はない。
――ホットラインがないとは非常に残念なことだ。ところで、次回の交渉は行うのか?
川口外相:先方は11月末までと言ってきている。こちら側がその返事を留保しているところだ。条件を出すとか、北朝鮮がそれを満たさなければやらないということではなくさまざまな物事の展開を見ながら、自然に決まっていくと思う。
――相手に条件を出しているかの問題ではない。日本としては何をクリアしたらやっていこうというものがあるのでは。
川口外相:原則を持たないで交渉をしているわけではない。優先課題が最終的に満たされなければ正常化はできない。これはきちんと考えている。
――5名の方々の家族の帰国問題が解決しないと次回はやらないということか?
川口外相:次の本交渉までの間にこの問題を解決したいが、解決をしなければ次の本交渉がないということではない。我々としては、北朝鮮側が誠意を持って前向きにこの問題に、しかも早期に対応してくれるということを望んでいるわけだ。
――小泉総理は、平壌宣言を署名する時、北朝鮮はNPTや94年の核合意に違反していることを知っていて署名したのか?
川口外相:9月17日以前に米国側から情報の提供を受けていた。要するに懸念があることは聞いていたが、詳細な情報を聞いていたわけではない。
●「辛光洙の引き渡しを求める」
△金子善次郎議員(民主党)
――拉致問題で一定のメドがつかない限り、経済協力、経済援助の問題について突っ込んだ話はしないと理解してもいいのか?
川口外相:経済協力については正常化した後でなければしないことははっきり平壌宣言に書いてある。どの段階で取り上げるかについては、北朝鮮側は中核的な問題というのは正常化自体の問題であり、経済協力の問題であると言い、日本政府は、最優先課題は拉致の問題と核問題を含む安全保障問題であると言っている。次回以降の議題については、具体的に今の時点で合意があるわけではない。
――生存が確認されてない拉致被害者の方々について100項目以上の安否情報を北朝鮮側に要求したようだが、要求項目は明らかにできない性質のものか?
川口外相:ご本人のプライバシ−にかかわる問題であるので、具体的な要求事項を明らかにするのは難しい。
――原さんを拉致した辛光洙という人物が英雄視されている。犯罪者が英雄視されているのを放置するわけにはいかないのでは。
田中局長:実行犯が一体、どういう身分でどういう人なのか、現在具体的な情報提供を求めているところだ。我々としてはいろいろ要求する権利を留保している。実行犯の問題も含めて事実関係の解明を急ぎでやっていくつもりだ。
川口外相:辛光洙については既に第一回の調査団が身柄引き渡しを求めている。
△伊藤公介議員(自民党)
――横田めぐみさんの娘であるキム・ヘギョンさんについて政府はどのように対応するのか?
川口外相:早期帰国を求めている対象の中にキム・ヘギョンさんも含まれている。この人達が、北朝鮮から日本に来て、自由な意思決定ができる環境の中で意思を決めることが
大事だと思っている。◆