北朝鮮の脅威にいかに備えるか 
衆議院予算委員会(2003年2月12日)


 「イラクの次は北朝鮮」と囁かれていた2003年2月の国会(衆議院予算委員会)での北朝鮮問題に関する審議を誌上中継する。(質問者は民主党の上田清議員、答弁は扇千景国土交通大臣、深谷憲一海上保安庁長官、谷垣禎一公安委員長=肩書は当時)

 ――中東のイエメン沖で5百kmスカッドミサイル15基及び弾頭、さらにはロケットエンジンを搭載した北朝鮮の船舶、ソ・サン号がだ捕される事件が起きたが、日本に寄港していたとの情報がある。事実関係を確認したい。

 扇長官:昨年10月に名古屋港に入港している。立ち入り検査を実施したが、犯罪に結びつくような事項は見つからなかった。それ以後の寄港はない。なお、船舶が売買された場合、国籍、船名が変更されることがしばしばある。

 ――ソ・サン号は国籍と名前を変えて、そして諸外国で3度にわたって航行停止の処分を受けているいわくつきの船舶である。一般の貨物船がスカッドミサイルなど大量殺傷破壊兵器を平気で運び、売買されることについてどのような形で阻止するのか?

 川口外相:政府は在京のイエメン大使を呼び、またイエメンで外務省次官を通じて申し入れを行った。一つは、北朝鮮によるミサイルの開発と輸出は日本のみならず国際社会の平和と安定に直結する重大な問題であること、もう一つは、中東地域でのミサイルの拡散を懸念しており、このミサイルが今後無責任な第三者の手に渡らないよう強く要請した。イエメンからは日本の懸念を十分に理解している、ミサイルは第三者に引き渡さない、今後このような出来事を二度と引き起こさないとの回答を得た。

 ――資料によると、北朝鮮の船舶は2002年レベルで1、414隻が日本に入港している。舞鶴で309隻、境港で328隻、小樽で129隻と、この3港で6割から7割となっている。どのぐらいの立ち入り検査があって、どのぐらい犯罪及び犯罪に類することが起きているのか、数字を上げてもらいたい

 深谷長官:2001年に延べ4万7千件余の立ち入りを実施したが、北朝鮮関係は1、136件。

 ――犯罪送致については?

 深谷長官:送致件数5、600件のうち北朝鮮関係は、覚醒剤関係だと、1998年から2002年までの間、5件の北朝鮮仕出しものを摘発している。

 ――北朝鮮については昨年(全体の)37.3%,約151kg没収している。このような状態についてどのような感想と対策を講じているのか?

 谷垣長官:1998年から2002年の間、件数は多くないが、一回一回の量がかなり多い。それから包装などが極めてきちっとしている。相当な技術力と資金力を持った者でなければできないと考えている。警察としては、海上保安庁や税関、諸外国とも情報を交換を緊密にして厳正に対処する。

 ――過去10年間にどのぐらいの不審船と思わしきものが日本近海に出てきたのか?

 深谷長官:海上保安庁としては過去21隻の不審船を確認している。昭和38年(1963年)に一隻を確認して以降、これまで21隻を確認している。海上保安庁としては現認そのものができなかったが、昨年9月4日のそれを含めると22隻となる。

〔2003年2月13日〕

 (質問者は民主党の河村たかし議員、答弁は茂木敏允外務次官、福田康夫官房長官)


 ――北朝鮮の核問題でIAEAは国連安保理に付託する決断を下したが、日本政府はどういう働きをしてきたのか?

 茂木次官:IAEAの理事国は35か国あるが、この中でパナマが欠席し、ス−ダンは投票権を停止している。ロシアとキュ−バが棄権をした。日本は全会一致のもとで決議をしたかったわけだが、二カ国が棄権したことは残念である。ロシアは今回、安保理に付託することについては時期的に賛成できないが、違反という点では認識が一致している。核問題については日本としては常に米国、韓国、さらに中国、ロシア、EUなど関係国との連携のもとで平和的な解決を図っていく。

 ――北朝鮮は経済制裁をした場合、厳しい対応をすると言っている。安保理に付託した以上、厳しい結論が出る可能性がある。官房長官としてどのような見通しを持っているのか。

 福田長官:直ちに制裁にいくことはないといわれている。それはそれでよろしいと思う。そのほうがよいと思っている。この問題を平和的に解決するということに力点を置いていろいろな交渉があると思う。日本も日朝の交渉の道も閉ざしていないし、米朝関係も極めて大事な交渉だろうと思う。制裁についてはその先の話だと思う。今はそういうことを言及すべき時点ではない。

〔2003年2月14日〕


 (質問者は民主党の米沢隆議員、答弁は川口外相、藪中外務省アジア太平洋州局長、福田官房長官、谷垣公安委員長、扇国土交通長官)

 ――9月17日の平壌宣言以後、北朝鮮はどんな動きをしたのか?この宣言にあるような動きをしているのか?

 藪中局長:核問題では遺憾な状態が続いている。北朝鮮はNPTからの脱退を声明するといった行動に出ている。

 ――何のために平壌宣言を結んだのか?

 川口外相:平壌宣言は政治的な重みを持った重い文書である。日本の立場というのは、北朝鮮が今行っていることを元に戻して、例えばNPTに再度入るとかして、この平壌宣言を守る形で国交の正常化の交渉を進めていくことがこの平壌宣言の意味と考えている。

 ――約束を破られるということはそれを一緒に結んだ小泉総理が馬鹿にされたことではないのか。

 福田長官:北朝鮮が平壌宣言をすべてほごにするような状況には至っていないというのが我々の認識である。それよりも平壌宣言に基づいて平和的に解決する道を探ることが大事だと思っている。

 ――大変苦しい答弁のようだ。ところで、北朝鮮の核問題は国連安保理に付託されたが、政府はどのような方針で臨まれるのか?

 川口外相:残念ながら日本は安保理のメンバ−ではない。直接的に会議を動かすのは難しい。従って、韓国と日本がこの問題では死活的な関係を持つ国なので、二カ国の意見が反映されるような形でやってほしいと働きかけている。安保理の中では今、制裁とかそういう議論は全くないし、論議しようと思っている国もない。

 ――そのような中途半端な方針でうまくいくのか?経済制裁には反対なのか?

 川口外相:論議されていないことについて、賛成だとか、反対だとかそういうことを言う段階ではない。平和的に解決するのは基本的な我が国の立場である。

 ――万景峰号の入港禁止とか、工作員が対日でいろいろ物騒なことをやっているとか、いろいろな話があるが、政府の中でどのような議論がなされているのか?

 谷垣委員長:工作員との関連ではこれまで1、550件の北朝鮮関係の工作員を検挙している。その活動を通じて彼らの工作の実態が浮かび上がってきた。この問題を考えるとき、中に入れてしまう前の水際が大事で、沿岸部において潜入、脱出を企てた工作員などの事件というのは今まで15件ほど検挙している。

 扇長官:万景峰号の入港問題については入国拒否ができるかのかどうか、昨年12月6日の閣僚懇談会議で話し合った。今その各省庁の連携をしているところだ。

〔2003年2月18日〕

 (質問者は自由党の西村眞悟議員、答弁は石破茂防衛庁長官)


 ――北朝鮮が核を持っている、運搬手段も持っているという前提で、いかに阻止するのか?このことについて相互確証破壊の体制を我が国でつくるのか、つくらないのかも含めて、政府の考えを聞きたい。

 石破長官:北朝鮮が核を持っているということにつ いては、米国でそのような発言があったことは承知している。私どもとしては、それがないということ、つまり、あるということを排除することにはならないだろうと思っている。そうすると、相互確証破壊という話になる。その場合に、日本として、先般も北朝鮮のミサイル発射について答弁したように、それでは、日本にそういう能力を持っているかというと、持っていない、通常の手段によって持っていない。そうすると、相互確証破壊で日本もそういうことになるのか、日本も核を持って相互確証破壊という世界をつくるのかといえば、それは日本としては非核三原則がある。そうすると、日米安全保障条約第5条あるいは防衛協力に関する指針、それをもって米合衆国の核によって相互確証破壊というものをつくることになるだろう。いずれにしても、日本はNPT体制を堅持することになっているので日本が核を保有し、相互確証破壊の世界を現世させるという選択はない。

 ――北朝鮮は経済制裁は宣戦布告とみなす、8名死亡のことで大騒ぎをしていると想像できないことが起こるとか、東京を火の海にするとか言っている。北朝鮮からは米国に基地を提供していることで攻撃対象にされ、米国からは共に戦わないから日米安保体制が解消されるという切羽詰まってにっちもさっちもいかない状態に国家国民を陥れるのは、内閣としては重大な任務違反である。この陥れるものこそ、集団自衛権はあるが行使しないという奇妙きれてつな、日本だけしか通用しない論理である。いいかげんに(集団的自衛権を)決断する時期だと思うが、政府の見解は?

 石破長官:物事の考え方として、集団的自衛権を認めないからすべて日本の安全保障条約は画餅に帰するようなものだという議論ではなく、今の憲法の解釈の中で一体どこまでできるのかという検証作業、今の日本国の憲法の解釈の中でどこまでできるかということも、これは誠実にやっていく義務が政府にはあると思っている。◆